48話目 オーガ狩り行こうぜ!

 アルフの姿が見えなかったので、あたしは急いでいつでも出発出来るように、着替えて準備をした。そして、下に降りて皆の輪に加わった。オーレンがいたので、横に付いた。

 ダンビラスさんが黒いよろいに身を包んで、先頭に立っていた。

 アレ?ダンビラスさんて、軍部大臣だったよね?オークの討伐に出るの?気が付くと、シルバニアやジョージが側に来ていた。


「せいれ〜つ!!」


騎士団長のニフロスが号令をかけると、先ほどまでガチャガチャとよろいこすれる音が鳴り響いていたのが、一瞬にしておさまった。


 アルフが壇上に上がった。銀の鎧に身を包み、後ろに真っ赤なマントをなびかせて、銀の兜を手に持っていた。皆、あの討伐隊の時では見た事が無い、物々しい格好ばかり。よろいや盾にも防御魔法が見えるし、かぶとには矢がれる、軌道変更魔法までかかっていた。


 とか言うあたしも全ての防具を新調し勉強と実験がてら、魔法防御も直接攻撃に対しても出来うる限り付けた。更に跳ね返しや、攻撃した相手を麻痺する呪文を付加している。


 そんなあたしと目があったアルフ。額に手をあてため息をつく、と頭を振った。は〜っ、やれやれって感じ?仕方無いじゃない。アルフに確認取りたかったけど、何処にいるか分からなかったんだもの。今更行くなと言われても、悪いけど色々試したい事もあるから引かないわよ。


 アルフは気を引き締めて、大きな声で叫んだ。


「本日未明、多くのオーガの群れがウラヌス渓谷から王都に向かって、行進していると確認された。王立騎士団、騎兵隊、近衛兵隊、シールス魔導士隊そして王都ギルドからも有志の者達が参加予定である。オーガの種類については後ほど、シルバニア部隊長より話があるが、今回の魔物討伐は今までとは規模も強さも違う。気を抜いたり、準備を怠るような者がいたら、命の保証はないと思え!」


 アルフは厳しい顔つきのまま、後ろへ下がった。

 次にあたしの傍に居たはずのシルバニアが、いつの間にか先頭に移っており、壇上へ上がった。


「魔物の種類と強さについて、通常のオーガの場合ですが全体の6割がこの魔物です。体長およそ175タイ(cm)、重さは150イロン(kg)。腕力も強くゴブリンと比べて、5倍ほどの力を有しております。魔力はあまりありませんが、皮膚が厚く通常魔法攻撃に対して耐性があります。


次にブルーオーガですが全体の2割程その存在を確認しております。通常のオーガと比べて、水、氷魔法に特化され、氷魔法を使用してきます。しかし炎の魔法にも強く、何に弱いかは確認できていない状態です。大きさ、重さも通常のオーガより一回り大きく全身を青い毛皮で覆われ、額に青黒い角が特徴です。


次にメイジオーガですが1割程が確認出来ました。特徴は全身を長い白い毛で覆われています。大きさは通常のオーガより小さく力もあまりありません。ですが俊敏で回避能力が高い魔物です。ニワトコの木で出来た杖を持ち、攻撃魔法や防御魔法を使います。仲間を防御したり、電魔法を多く使用してきます。


最後にオーガロードが1割程。体長250タイ、重さも250イロンはあり、力、魔力共に非常に高く、俊敏です。力で攻撃してきますが、魔法防御能力も高いので、攻撃の際は個人ではなく、必ずチームで倒すようにしてください。」


 シルバニアは壇上からおりると、再びあたし達の元にきた。


 次に壇上のダンビラスさんが中央に立つ。

 ひと際大きな声で皆に声をかける。


「ブーケットの精鋭達よ。スイーテニアを守る勇者達よ。前回の討伐からまだ日が立っていないにも関わらず、再び君達を戦いの場へ送り出す事を許してくれ。今このブーケット全域に渡って、暗い影が忍び寄っている事を前回の討伐で感じた者も多いと思う。今こそ、ブーケットの力を見せつける時である。ブーケットは小国か?」ダンビラスさんが問う。


「否!」皆が叫ぶ!


「ブーケットは弱い国か?」ダンビラスさんが問う。


「否!!」皆が叫ぶ!


「そうだ!否だ!!我々は弱くない。敵の策略にも、魔物にも、どんな強い敵だとしても決して蹂躙されてはいけない。家族を大切な者達を守るのは自分達だ!最後まで諦めず、仲間と協力して倒して欲しい。ブーケットの精鋭たちに精霊のご加護を!勝利の導きを!!ブーケット!!」


「ブーケット!!」


「ブーケット!!」


「ブーケット!!」


「ブーケット!!」


「ブーケット!!」


 兜や鎧を叩きながら、魔導士達は杖を地面に叩きながら、隊員達が叫ぶ。



 先行隊は王立騎士団、次が騎兵隊達。あたしたちは近衛兵隊達と最後に王宮から出た。城に残った半数の近衛兵隊、1/3の王立騎士団達は女王や王都を守る。半数の近衛兵といってもアルフの近衛兵の3倍、1/3の騎士団も同じくらいは居るから、大丈夫でしょうけどね。※ちなみにアルフの近衛兵隊は全員で25人位。(情報部や辺境伯城に残した4名含む)


 アルフがあたしの傍に近づいて来た。

あたしを真っすぐに見つめ、獲物を殺すような極上の微笑みを浮かべながら、全身からぶわ~~~っと甘ったるいオーラをかもし出した。


 ウハァ~フェロモン大全開しての攻撃じゃ~。

瞳が赤くなっていないだけかな?

ま、やっても、どうせ効かないしね。(魔法防御)

 あたしの近くに居た王立騎士団の女性団員の方がオーラに充てられ、ヨロヨロっとした。討伐前に何してんだか。



「そんな勇ましい恰好しているけど、城で待っていてくれって言ったら、君は待っていてくれるかい?」



更にキラキラ極上微笑み攻撃であたしを諭すつもり?

そうですか。そんならコッチニモカンガエガアルデスヨ。


あたしはアルフをぎゅっと抱きしめ、「アルフ」といったら。

明らかにホッとして、「今回は強い敵だから、危ないんだ。春音には安全な所で待っていて欲しい。」


「…あたしが諦めると、本気で思っている?ん?」あたしは抱きしめながら呟いた。


フ~ッ。アルフは大きなため息を吐いた。


「……思っていないよ。だから今のは確認さ。希望的確認だね。」


「大丈夫よ。鉄枷ジャックが何体かいるようだと思えば。それにいざとなったら転移魔法で王宮に逃げられるし、土の精霊にも防御してもらうよう、手筈は整えたからね。」


「まったく、君って人は。怖がりで恥ずかしがり屋だった、彼方あちらの頃の姿を思い出そうとするんだけど、もう忘れてしまったよ。2ヶ月しか経ってないとは思えないよね。」

「あ、ごめん。それ猫かぶっていただけだから。」あっさり言ったら。

詐欺だとか騙されたとか言っているけど、鍛えたの自分じゃんね~?




検索魔法でオーガの群れの様子を伺うと、ウラヌス渓谷の土ぼこりが上がっている所から、沢山の赤い点が浮かび上がった。ひと際大きな赤い点がオーガロードかな。どれ位強いのか、試したい。


「…隕石落とすとか、全体凍らせるとか、全部燃やすとか、何か高度魔法使っちゃ駄目?」あたしはアルフに聞いてみた。


「……ん~。ちょっと待ってて。」アルフは全軍に止まるよう指示した。

危険なのであたしは先頭より前に転移し、魔法を使えるよう準備した。

先頭の騎士団員が「ウオッ!」と声を上げた。


「…………いいよ。どうぞ。」アルフがちょっと面食らった顔で答えた。


目を閉じ、あたしの体の奥から魔力を感じ取る。

まだずっと先に居る敵の赤い点に向かって魔法を唱えた。



「ファイアインフェルノ」



 まずはこんがり焼いてみようか。

オーガの群れは阿鼻叫喚あびきょうかんの地獄の中、散々になりながら、防御魔法をかけるメイジオーガ。通常のオーガは体の皮膚がただれ、下半身が蒸発した者が多かった。ブルーオーガは膝から崩れ、立ち上がれなくなっていた。

オーガロードは怒りのあまり、こちらに走ってきているようだった。


ふむ。段々姿が見えてきた。近くに来たら、冷やしてあげてみようか。



「絶対零度」



 オーガロード達の足が止まった。オーガロードやメイジオーガ、冷気に強いブルーオーガまで凍ってしまった。それはまるで彫刻のようだった。


「じゃ、後は宜しく~。」


あたしは騎乗のアルフの近くに転移した。


ハアッ…上からまたもやため息が聞こえた。




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る