第32話 オカン炸裂!エルフと精霊の呪い。

「……こんなに早く、最終兵器を使う事になろうとは。」アルフは呟いた。


 ここはブーケット平原から、車で1時間程西に向かった、タナトス草原。時間がないから、ここまではキャンピングカーで移動した。でも流石にバレそうなので、倉庫にしまって、通常の誰が見ても良い野営場を設けた。


 アルフは日本で購入した、桃缶を取り出して、エルフの子供に見せた。ちゃんと子供用の椅子(ファミレスにあるアレです。)に座らせ、テーブルに小皿を置いた。


 缶切で桃缶を開けると、桃の良い香りが漂った。途端にエルフの子供の顔が、パァッて輝いた。


 そして小皿に桃を盛って、フォークを握らせ、「甘くて美味しいよ。さぁ、お食べ。」とエルフの子供に差し出した。


 あたしも食べたい。


「大丈夫、皆の分もあるから。」


 アルフが苦笑いしていた。

 気がつくとあたしの後ろには、猛獣達がヨダレを垂らし、あたし達の様子を伺っていた。


 何スカこの美味そうな匂いは!

 アレ美味いんだよ!

 あのシロップも神味だよね!

 殿下早くください!

 熱の時爺やが買って来てくれた!

 桃は大きい方が好みですよ。


 エルフの子供はニコニコ満面の笑みでアルフに言った。


「パパおかわり〜!」


 おねだりも可愛い。

 いっぱいあるよ〜!といそいそ出して……山程、出してきた。

 本当にどんだけ、買い溜めしてたの?アルフは目尻が下がりっぱなし。


「はい!ママの分!」


 と言って、桃をのせた小皿を渡してくれた。

 でも、なんとなくしゃくだ。

 あたしにだって、こんなデレデレな顔、見せた事ないよ?

 アルフがオカン気質なのは十分解っているし、子供にヤキモチ焼いてもしょうがないんだけどさ。擬似親子って気分を、楽しんでいるだけだってね。


「美味しい?エルフちゃん。」


 と聞くと、エルフの子供はあたしに


「僕の名前はサチェだよ。」


 と応えた。


「オール・デ・ライトのサチェ。」


 オール・デ・ライトとはオールの山を越えた、春知らずの森に住む銀のエルフ族の事らしい。

 人と交流をする事もなく、ひっそりと暮らしているらしい。

かなりの極寒地の為、近くを行った事ある人が少なく、情報も少ない。

そんな所から攫われたなんて、サチェの家族は無事かしら。

 攫われた時の状況を聞いてみた。すると、これから冬越えの為南下して、より栄養のある木の実を探していた時に、鉄枷ジャックに捕まってしまったらしい。

じゃあ、家族や村人は無事なのねって聞いたら、少し間があって


「そ、そうだね。村には魔物は来ていないよ。つい、一人で遠くまで探しに来て、見つかってしまったんだ。」と言った。


 ふぅん。……ん〜なんだろう。

…何か違和感。引っかかるんだよね。


 でも、アルフはそんなサチェにメロメロで、椅子から降ろし自分の膝の上に乗せ、大きな桃をフォークで小さく切って、食べさせている。フフッ楽しそうね。


 アミダラさんが到着するのはお昼前らしいので、それまであたしはシルバニアさんに聖なる光魔法の使い方を習っていた。


「聖なる光の魔法とは、愛する心が必要です。つまり、愛が無ければ、人を救う事は出来ないのです。」


 愛する心?


「回復魔法の場合と同じで、慈愛の心を与える事が必要です。治してあげたい。痛がって可愛そうだと思う心を、魔力と一緒に対象者に与える事で、回復しましたでしょう?それと同じです。」


 そう言えば、高坂の腕にミトレスが剣でワザと傷つけて、実験した時も痛そうって思って、手をかざしてたかもしれないな。


「ケルピーの森が墨に侵され、弱まっている。森が痛がっている、森を治してあげようと思えば、聖なる光が出せるかもしれません。」


 なるほど。じゃあ、ゾンビとか、アンデッド系の魔物が出たら、肉が腐って可愛そうにと、思えば良いのかなぁ。肌もボロボロになって、骨まで見えて恥ずかしいだろうにとか?脳みそ液状で考える事も出来なくて可愛そうとか?

 体に蛆が………。

 ヒィッ。そ、それはお労しい。

 聖なる光魔法、出せそうだわ。



 アミダラ隊長達が到着した。


 ここは女性だらけの隊員の中に、男性はグレン副隊長のみ。男だらけの第1隊と混ざると、グレンさんは嬉しそうな表情を見せた。やっぱり、女性の中に居るのって、色々と気を使うものね。あたしの場合、ミトレスが居るから、まだ良いけど。


「何この子可愛い〜ん!」

アルフが抱っこ紐で、寝かしつけたサチェを見たニーナ隊員はワナワナ体を震わし瞳に♡を浮かべ、悶えた。


 どっから出した?抱っこ紐!!

そんなのいつ買った?しかし、まんまオカンじゃねぇか!!



「しぃっ!今寝たばかりだから、もっと小さな声で話して!」

 ヤバい……完全オカンモード炸裂!なアルフが小声で囁いた。


 寝ていると、本当の子供に見えるね。ぷくぷくなほっぺにツンツンした。銀の髪に緑の目、誰が見ても可愛い子供。



 …う〜ん。ウキウキなアルフを見ると…やっぱり色々考えちゃうな。

 あたしは今、婚約者の立場なわけで、アルフと結婚するって事は、妊娠したら子供を産まなくちゃいけない、ってわけで、お世継ぎが必要なわけで……。


 あたし自身がまだ子供なんだよ。

あちらとこちらとでは成人の年齢も違うし、まだまだ子供を育てるって、覚悟が出来ていない。

 ただアルフの側に居れば、それで良いと思っていた。アルフが家族を欲しがるの、解っている。あんなに寂しがり屋だって、解っているのに。

 あたし応えられるの?

 ……自信がない。




 アミダラ隊長達が見つけたものは、オルセン高原の手前、キタギスの森に住む、パールモンキーを討伐した後だった。


 パールモンキーは普段人を襲わない。家族愛、仲間愛、また環境にも敏感で、穏やかな性格の猿の魔物。どちらかといえば、魔物より妖精に近い性質を持っていた。

 ケルピーの森で出会った、あの穏やかな目をしたケルピーのように。所が、今回出会ってしまったパールモンキーは最初から、攻撃的で、様子がおかしかった。


 キタギスの森も荒れており、針葉樹ですら一つも葉をつけていない。枯地の森になっていた。

 しかも、木の表面が傷だらけだった。アミダラ隊長はパールモンキーと戦いながら、彼等を観察した。彼等の目は怒り、復讐心、虚しさ、そして悲しみが見えた。

 ここまで、穏やかな彼等を駆り立てる程の何が起きたのだろう。

群の奥に何かがある。集中して、遠視魔法を使う。雌達が、悲しみ嘆いている。その手に何かを握っている。沢山の雌が其々、何を持っているのだ?

 ……?


 子供?

 !!!


 沢山の雌が、沢山の死んだ子猿を抱えている。何故そんなに一度に死んだんだ?病気か?


 まて、何だそれは。


 黒い箱?

鉄で出来た四角い箱?

黒い小さな棺のようなものが、大きな木の中に入れられている?

表面はガラスが組み込まれ、中に何かが入っている。


 何だろう。ゾワゾワする。


 ……見たくない。

 ……見たくない。

 ……見たくない。


 本能で何かが叫ぶ。

 精霊の声か?


 私はこの第2討伐隊の隊長だ。

何が起きているのか、知らなければならない。集中だ。


 ガラスの中には人?

 子供か?

 小さな猿?

 誰かが入れられいる。

 体をイバラで巻かれ、胸、腕、足に杭が打たれている。……血が流れている?

 何だこれは?中の人物の顔が動いて、瞳がギロリとこちらを向く。



 その瞬間、キィーンと耳鳴りがして、頭の中に何か映像が流れてくる。これは妖精か?いや、森の精霊か?

まさか、精霊が捕まる事が?


 何か良くないものに捕まった。

この箱に閉じ込められ、様々な魔法をかけられ、外に出る事は出来ない。生きたまま、死ぬ事も出来ず、痛みと苦しみ、悲しみと憎しみに囚われて、逃げる事も出来ない。


それなら、私に触るもの全てに呪いを授けてやる。


 ……これは呪いの棺!!



ではパールモンキーの子供達もこの呪いで?


私はパールモンキーと戦い、彼等の嘆きを受け止めた。


彼等は半数を連れ、山へ逃げていった。


「私達もどうしたらいいのかと、途方に暮れまして、危険なので誰も触れないよう結界を張り、その呪いの棺は木のうろに入ったままにしております。」


「む、そうだな。下手に触って、呪いを身に受けてしまう可能性があるやもしれぬ。魔導師会に知らせるべきだろうが、だがその前に見て確かめる必要があるかもしれんな。」アルフはあたしを見た。


 あたしは精霊の事なので、話を聞いてしまい、心がざわついて、落ち着かなかった。


「精霊の事なら、春音が見た方が良いな。ただ迂闊うかつに触るなよ?他の精霊に相談出来るかな?」



 うんうん。相談してみる。

 あたしは大きく頷いた。



 野営場のテントの中、サチェはベッドから起き上がって、皆の話を聞いていた。


 するとテントの影から

「……どういうつもりだ?調子にのるなよ?」シルバニアが呟いた。


「やぁ、お兄さん。どうしてそんな怖い顔をするの?」サチェがいった。


「……臭い演技だな。

 貴様が実は殿下や春音様より、ずっと年上だと知ったら、殿下達はどんな顔をするだろうな?なぁ、サチェよ。」怖い顔のシルバニアがサチェに向かい、言った。


「お前だって僕より、年がずっと上じゃないか。何だよ、年寄のくせに!偉そうにするな。」

 可愛い顔なのに、憎たらし事いう。


「ほう。今、ここで斬られたいというわけか。」シルバニアの目が本気だと言っていた。


「ちょっ、、待ってよ。冗談だよ。冗談。そんなムキになるなって!」サチェが呟いた。

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