第31話 恐怖の鉄枷ジャック
あたし達はバニシルビアの山から、オールの山に向かい、巨大な岩の形が大鳥に似ている事から、大鳥岩と呼ばれている谷に来ていた。
この辺りはゴツゴツした岩だらけ場所で、岩が
どうもスキーとかスケートとか滑り系は苦手なのよねぇ。もう何度も滑りそうになったりその度に「ホワッ!」と叫び声をあげたりしてたら、高坂が目をキラキラさせて
「それって、○ーンウォーク?
モノマネしながら歩くなんて、流石に、余裕だよなぁ。」
と感心して鼻歌を歌ったり、あたしのモノマネしてを「ホワッ」と変顔してやりやがった。
……クゥッ、こ、こいつ、モノマネしながら歩くワケ無いだろうガァ!!喧嘩売っとんのかい!マジ殺す!!
ここに出るって魔物が時々、巨大な体に沢山の人間の生首をアクセサリーのように、プラプラ〜ンとぶら下げている「鉄枷のジャック」と言われる魔物で、かなり噂になっているらしい。見た瞬間、チビっちゃいそうな見た目。生首集めなんてグロいわ、無いわぁ。
精霊達が言うには、もしかしたら、アン・シーリー・コートの類ではないかと言っていたので、確認する為に来ていた。
もし出会わなかったとしても、
ノーチスの滝の滝壺に仕掛けられた、水の魔族の王子の存在。
これが魔族の王の企む、大きな災いの種の一部だとしたら?他の場所にも、何かしら仕掛けがあるかもしれない。
アルフは他の部隊とも連絡をとった。腕輪の通信魔法。第2部隊の隊長はマグノリア隊長の奥様。アミダラさん。
彼女達の隊は西のオルセン高原へ向かっていて、今まさに戦闘中との事。オルセン高原の手前、キタギスの森に住む、猿みたいな魔物と戦っているらしい。すばしっこくて数が多いから、終わったら連絡するからと言われ、マグノリア隊長はちょっと心配そう。
アミダラさん達からの連絡を待つ間、大鳥岩の谷に行こうという事になったのよね。
ちなみに第3部隊の方は、連絡に出やしない。サボって寝てるんじゃないかと、アルフは言った。やる気ないやつは知らんわ。
この「鉄枷のジャック」魔物だか、漆黒の妖精だかは体長3m近いらしく、攻撃力も魔力も相当、強いらしいの。ただ、頭はそんなに良くないので、作戦としてはミトレスが氷の魔法で足元を狙い、背後からオーレンが右の膝の裏側を、高坂が左側を剣で切る。ジョージさんが前から炎の拳で叩きつけ、背後に倒す。マグノリア隊長が顔面に剣で叩きつける。それが終わったら、あたしとアルフが魔法で、倒す。シルバニアは雷の矢で常に打ち、後方支援。
上手くいけばね。
まぁ、現れるとも限らないけど。
見た者の話では、いつも現れる時間帯は夕方の日没前に、鉄と鉄を擦り合わせるような音が、どことなく聞こえてくるらしい。
山のおおよそ、七合目あたりに位置している場合だった。
オールの山を越えると、雪に覆われた白銀の山々が見える。今回はオールの山は越えず、この七合目までにする予定。一応、討伐ルール規定にも書いてあったしね。
それにしても、寒い。
息が白く、雪が降ってもおかしくない天気。もうちょい暖かくしてくれば良かった、と後悔した。こんな寒い所に本当に出るのだろうか、人間の生首ぶら下げるなんて、想像しただけで気持ち悪かった。
岩の隙間に水が溜まり、水が緑色になっている。コケて、体に浸からないようにしないとと、眺めていた。すると、水が揺れて波紋が見える。
ん?地震?
僅かに響く。ズン、シーン。
段々、強くなってきた。ズン、ギシーン。ズンジシーン。
検索魔法で、大きな赤黒い魔物が近づいてきたのが分かった。。
で、デカい!!
3m位どころか、それ以上あるんじゃないの?
しかも、赤黒く見えたのは、全身、血を浴びているかららしかった。浴びてない所は、肌の色が見える。肩から鎖をいくつもぶら下げていた。…その一つ一つに、まるでアクセサリーのように、人や動物、獣人等の生首がぶら下げられていた。悲痛な最後を送ったかのように、凄惨な表情を浮かべていた。
あたし達が隠れている岩場に向かって、真っ直ぐに歩いてくる。
何だろ。何か袋のような物を担いでいる。
それは、微かに動いているように思えた。
ジャリジャリン、、。と鎖を引きずるような音。
岩場にさしかかり、片足を踏み入れたと思ったら、唐突に歩みを止めた。鼻をモゾモゾうごかし、辺りの匂いを嗅ぐ。すると、ニタァッと下卑た顔で笑った。
う……まずい。
隠れているの、バレた?
突然、体に巻きついている長い鎖を手に握ると、あたし達の隠れている所に向けて、鞭のように叩きつけてきた。直ぐに高速魔法で山側に逃げた。
ウギャッ!!
イキナリ攻撃して来たぁ!
岩場にこびり付いた、コケや岩のカケラ等が舞う。
「上だ!!春音!!」
アルフが叫び、あたしを抱え上空に飛んだ。
気がつくと、さっきまであたし達が居た所に、魔物が再度、鎖を叩きつけていた。そして、あたし達がいる上空を見上げニタニタしている。怖ぁ!!
魔物も大きくジャンプしてきて、こっちに向かってくる!!
嘘!嘘!嘘!頭って、あまり良くないんじゃ、なかったのぅ?
しかも、こんな俊敏な動きするなんて、聞いてないよ!!!
そして、ジャンプしながら、鎖をこちらに向け!放り投げてくる。
グハッ!危なっ!!
シルバニアの雷の矢が、魔物の脹脛に刺さる。魔物が着地した途端に、ミトレスが魔物の足に向けて、氷魔法をかけた。
「アイスロック」
巨大な体のせいか片足にしか、魔法がかからない。
マグノリア隊長が渾身の一撃で、鞭のような長い鎖を短く断ち切る!
しかし、魔物はまた余裕で、グヒグヒ笑う。
高坂とオーレンが
ジョージが炎を足に纏い、魔物の体を蹴るが、ビクともしない。反対に蹴り飛ばされた。勢いが止まらず、岩場の坂を下に転がり落ちていくジョージ!!
そして、魔物は生首の付いた鎖を持つと、生首ごとブンブン回した後、上空のあたし達に向け、投げ付けた!
ギャ〜〜〜ッ!!!
それ無理!それ無理!な、生首飛んでくるぅ〜〜〜!!
咄嗟にあたしは魔物に向かい、炎の魔法を唱えた。
「ファイア〜インフェルノ!!」
!!!!!
あたしの指先から大量の魔力が飛び出してきて、その魔力はどんどん熱を帯び、大きく膨れ上がる。渦巻くように敵のいる方へ目指した。魔物一帯に、真っ赤な灼熱の炎が上がる。岩場は崩れ、まるで龍が
あちゃ。またやり過ぎてしまったかしら……。
はっ!皆は無事??
「……っざけんなよ!!魔法出す前に声かけろよ!バカ野郎!!」と高坂がミトレスにお姫様だっこされ、隣で浮いていた。
「あたし達の事、本気で
「マジ、ヤバかったっす!今のは、、ってか、全員いるっすよねぇ。」とオーレン。
「いゃあ、、次の攻撃しようと目線を上にしてたから、お嬢ちゃんの魔法の構えが見えたから良いようなものの。。。」とマグノリアさん。
ジョージも真っ青な顔で、苦笑いしている。
…あ!!え?シルバニアが居ない?
……ま、さ、か!!!
「…本当、命いくつ必要でしょうか。私も老いた父より先には、逝きたくないですしね。」
あたし達より、かなり上空、太陽を背に立っていた。キラン!
、、あ、浮いているんだよ?でも、地面に足を着けているみたいに、立っているんだもん。シルバニア……この人って…底が知れないっていうか。
でも、全員浮いてて、討伐完了って絵、中々面白いな。
まぁ、そんで、またアルフに怒られた。攻撃魔法かける時は、味方が何処にいるか、考えてから撃てとか。大体なんだ、人類が滅亡してしまうような、あの魔法は!!とか、高度魔法は今後、当分使用禁止だ!とか、そんな変な魔法ばっか覚えてないで、いざという時に飛べるように、使える魔法を憶えなさい!って、かなりの間、お説教くらいました。ハァッ。
まぁ、自分でも、反省はしているんだよ?焦ると、口から何出るかわからないからね。冷静でいられるよう、コントロールしないとね。
で、あの魔物が持っていた袋!
中にはなんと、魔物に囚われていたエルフの子供だった。体の周りを緑と黄色いオーラがモワモワ〜っと発光しているなんか、ちっちゃくて可愛い♡人間でいうと、だいたい5〜6歳位の子供の大きさ。
シルバニアが話しかけたが、言葉が通じないらしい。あたしの精霊の力は通じるかな?
「こんにちは。怖かったね。もう大丈夫よ。」そう言うと、エルフの子供は走って、あたしの足に抱きついてきた。
「……。」
「僕?お名前は?」
「……。」
そうだ!
討伐のお供に持ってきた、手作りビスケット。
「食べる?」って差し出した。
…そっと手を伸ばし、一枚とる。
恐る恐る口に運ぶと、モシャッと食べた。
ニコォッて笑って呟いた。
「……美味しい。」
その後、アルフが可愛い可愛いって、エルフの子供を抱っこしようとしたら、シャアシャアいって威嚇した。
アルフが手を広げて「パパだよ〜。」とか言ってる。
エルフの子供は、プイッと顔を横に向けた。あたしはエルフの子供を抱き上げた。すると、あたしの首に両手をかけて「ママァ!」って言って、あたしの胸に顔を埋めた。その後、アルフをの方を見て、ニヤッとやった。
ん?この子……。
で、その後アミダラさんと連絡とれて、あっちでも何やら、きな臭いもん見つけてしまったのだとか。そんで、今日はゆっくり休んで、明日合流する事になった。
きな臭いって、何見つけたんだろね?
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