第75話副作用

「閣下、失礼いたします」


 ツェツィーリアがガクガクと震える俺の手を、自分の手で優しく包んでくれる。決して嫌らしい意味があるのではない、ゴブリンを殺そうとしても震えてできない俺を支えてくれるのだ。


「ありがとう、悪いがこのまま手助けして欲しい」


「私でよければこのまま助太刀させていただきます」


「ああ頼む」


 ツェツィーリアが俺を後ろから抱きしめるようにして、両手をしっかりとつかんでくれている。それでもいっこうに身体の中から沸き起こる震えは止まらないが、さっきまでブルブルガクガクと震えていた刀の動きは止まっている。ツェツィーリアの力強い両手が、震えを抑え込んでくれているのだ。


 ツェツィーリアに導かれるように、震える足でゴブリンに近づいた俺は、刀を勢いよゴブリンの心臓に向けて突き刺した!


 いや、実際には俺の手に力などはいっていなかった。震えが止まらず力など全く入らないのだが、ツェツィーリアの力強い両手が、俺の手の中にある刀を操りゴブリンに止めを刺してくれたのだ。


 俺はこの感触を一生忘れることができないだろう!


 ゴブリンの心臓を突き刺した刀から、ドックン・ドックンと鼓動を打つ脈動が俺の手に伝わってきた!


 そしてゴブリンの心臓が痛みに収縮し、俺の手に中にある刀を強く締め付ける動きまでも伝えてくるのだ!


 俺の身体の中に雷に打たれたような衝撃が走り、この手で命を奪った事が明白に理解できてしまった。その瞬間に胃が収縮し、我慢すると言う意識を持つ前にその場で胃の中の物を全て吐いてしまった。胃の収縮が止まらず胃痙攣(いけいれん)を起こしてしまったのだろう、吐き気が止まらないまま盲腸の時のような激しい腹痛が始まってしまった。


「閣下、これを御飲み下さい」


 シャルロッテが白湯と薬を差し出してくれる。


 薬は事前に俺が用意していたもので、鎮痛痙攣薬(ちんつうけいれんやく)をドローンで取り寄せておいたのだ。俺のような者がモンスターとは言え人型を殺すのだから、これくらいの弊害(へいがい)が起こるのは分かっていた事だ。


 同時にクレメンティーネが俺のブーツを脱がせ、胃痙攣のツボ・足三里(あしさんり)・梁丘(りゅうきゅう)・内庭(ないてい)・陥谷(かんこく)・衝陽(しょうよう)を押してくれる。


 ツェツィーリアは、刀を固く固く握ってしまっている俺の手の指を、1本1本優しく強く刀から剥がしてくれて、親指と人差し指の間にある胃痛のツボ・合谷(ごうこく)を押さえてくれる。それが終わると両手首の上にある神門(しんもん)、最後に胃の前にある中脘(ちゅうかん)・天枢(てんすう)・神闕(しんけつ)のツボを優しく押してくれた。


 まあ全部俺が事前に指示していたのだが。


「さあ閣下、このまま一気に殺しの抵抗を克服しましょう!」

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