第59話婚約

「御爺様、本当によいのですか?!」


「俺から言いだした事だ、それにビアンカもイチロウ殿に懐(なつ)いているではないか」


「しかしビアンカは未だ7歳ですぞ」


「貴族同士の婚約ならば7歳でも早すぎると言う事はない」


「しかし嫁ぐとなると早すぎます」


「今でもビアンカはイチロウ殿の所に入り浸りでは無いか、正式に嫁ぐか嫁がないかの違いだけだ」


「ビアンカが不憫(ふびん)では無いのですか?!」


「むしろ安心している」


「御爺様!」


「海千山千の新興貴族や、いつ滅ぶか分からない没落貴族に嫁がすより、イチロウ殿に嫁いでくれた方が安心だ。少なくともこちらが先に裏切らない限り、イチロウ殿が裏切る心配はないからな」


「しかしイチロウ殿は、ビアンカが大人になるまで側室をもうけると言っています、それは不誠実と言うものです」


「姉上様、いい加減になさいませ!」


「バルバラ、お前はこの婚姻に賛成なのか?!」


「もちろんでございます! イチロウ殿が協力してくれたからこそローゼンミュラー家は騎士家から男爵家に成り上がる事ができたのです、それは姉上様も理解されておられるでしょう?」


「それはそうだが」


「それにイチロウ殿を敵に回して、常備1000兵を超えた従士団をどう維持される御心算(おつもり)ですか? イチロウ殿との交易無くして維持費を稼ぐ事など出来ませんぞ!」


「分かっている、分かっているが、ビアンカが不憫(ふびん)でならんのだ」


「そのような頓珍漢(とんちんかん)な事を思っておられるのは姉上様だけです! ビアンカ本人も私たちも心から喜んでおります。いや、父上様だけは姉上様と同じく女々(めめ)しい考えを持っておられるかもしれません」


「「なに!」」


「クラウスは黙っておれ! ゴホッゴホッゴホッ」


「御義父上様!」

「父上!」


「心配いらん、いつものことだ」


「私は父上とは違う!」


「ならば現実をしっかり見つめられませ! 今のような戯言(たわごと)を申されるようなら、愚かな猪と同じで、進むことしか出来ない狂戦士でございますぞ!」


「分かった」


「バルバラ、アーデルハイトの心配はともかくとして、ビアンカが嫁ぐよりもバルバラかべアトリクスがイチロウ様に嫁ぐと言う方法は取れないのですか?」


「以前なら母上様の言う方法も悪くはなかったのですが、今では難しいのです」


「それは何故ですか?」


「私は姉上様の側を離れる訳にはいかないのです」


「それは理解しております、今のやり取りを見る限り、バルバラがアーデルハイトの側を離れてはローゼンミュラー家の破滅でしょう」


「どう言う意味ですか母上様!?」


「言葉通りですよアーデルハイト」


「姉上様は黙って御聞き下さい! それとアバーテ地区が手に入った事で、べアトリクスとブリギッタをアバーテに常駐させるしかなくなりました。アバーテの700兵と本領の300兵を使いこなすには、ビアンカ以外の姉妹が嫁ぐわけにはいかなくなりました」


「バルバラはアーデルハイトを過保護にしていませんか?」


「どう言う意味でございますか母上様」


「イチロウ様と絆(きずな)ができたローゼンミュラー家なら、アーデルハイトの武勇に頼らなくてもよくなったと言う事です。個人の武勇に頼らなくてもよいのなら、アーデルハイトを本領に止めて安全を図る必要はないのではありませんか?」


「母上様は、私が過度に姉様の安全を図っていると仰るのですね」


「そうです、先の戦いでは追い詰められ教都まで遠征していましたが、普段から本領に籠り安全第一を採り過ぎです。アバーテ地区に貴女とアーデルハイトを常駐させ、べアトリクスとブリギッタに本領を護らせれば、2人のどちらかはイチロウ殿に嫁げるのではありませんか?」


「それはそうでございますが」


「バルバラは、無意識に妹たちがイチロウ様に嫁ぐのを邪魔していませんか?」


「何を仰るのです母上様!」


「バルバラはずっと家の為に自分を抑えて来ました、ですが家がここまで繁栄した事で、無意識に自分の望みをかなえようとしているのではありませんか?」


「それは、私がイチロウ殿を慕っていると仰られるのですか?」


「はい、あれほどの能力者をあなたが慕わない方がおかしいのです」


「ですが母上様、イチロウ殿の能力は個人のものではなく、異世界の道具を使えると言うだけの物でございます。私でも慣れれば使いこなせる道具を持っているだけの男に、私が我を忘れて恋することはないです」


「ですがその道具を異世界から持ち込む能力は、イチロウ様だけが持っているのではありませんか? その能力に惹かれているのではありませんか?」


「それは・・・・・」


「それにバルバラ、ネットやスマホの話を横から聞いておりましたが、イチロウ様には御爺様の病を治す薬に心当たりがあると言うではありませんか」


「確かにそのような話がありました」


「ならば何をグズグズしているのですか! 今直ぐイチロウ様をアーデルハイトの婿に御迎えしてでも、御爺様の薬を手に入れるのが孝行と言うものです!」


「はい! 私が愚かでした! 直ちにアバーテ城に行く準備をします」


「アーデルハイトもです! イチロウ様が婿に決まってもグズグズと文句を言ってはいけません!」


「はぃ? 母上様?」


「ちゃんと返事なさい!」


「はい! 承りました」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る