第55話人気動画

「一朗さん、貴方は本当に異世界に転移されたんですか?!」


「はい、トレッキングをしていて霧にまかれたら、いつの間にか異世界に来ていました」


「証拠となる物はありますか?」


「毎日投稿している動画が証拠です、それに以前注文して下さった御客様に送った、金銀貨とそれを包装していた木箱と紙の成分を調べて頂ければ、ある程度の事は分かると思います」


「今から私が動画に写っていた動物や植物を指定しますので、それを送っていただく訳にはいきませんか?」


「以前なら喜んでそうさせて頂いたのですが、異世界に未知の病原菌があった場合、地球を滅ぼすようなパンデミックが起こる危険に思い至りました。気づいてしまった以上、知らない振りをして異世界の物を送る事はできません」


 俺は、疑い深げに質問して来るテレビのメインMCに対して誠実に答えたが、メインMCの態度も口調も傍若無人(ぼうじゃくぶじん)で、しかも全ての返答に対して現政権の批判につなげようとする態度だった。


 何をどうつなげれば、神隠しのような異世界転移を政権批判につなげることができるのか、偏ったイデオロギーに染まった人間と組織は狂気としか言いようがない。


 俺の動画投稿は世界的に大人気となっていた!


 当初(とうしょ)は細々とした趣味のもので、1カ月10万円前後の収入だった。だが異世界に迷い込んだ事で、獣人の変身動画や異世界の風景や動植物を投稿したことで、爆発的な人気となった。


 特に大きかったのが、ハリウッドをはじめとする世界各国の映像関係者、特に特撮やCGの技術者が競って真贋鑑定(しんがんかんてい)をしたことで、人気俳優たちまで御勧めしてくれた事だ。御蔭で今では、世界1位になりそうなほどの再生回数の伸び率だ。


 しかもこれには大きな副産物があり、異世界の検証をする為にも、俺が始めたネットによる金貨銀貨の販売に注文が殺到したのだ。だが本気で検証するとしたら、異世界の動植物を日本側に送る必要があるのだが、これを姉ちゃんが禁止したのだ。


 今まで色々な商品を遣り取りしていて今更なのだが、万が一異世界に激烈な病原菌があった場合、地球で致死率の高い病気が流行るパンデミックが起こる危険がある事に思い至ったのだ。


 俺も姉ちゃんも、生き残る事と日本に帰る方法を探すことに必死で、大切な事をすっかり忘れてしまっていた。だが異世界での生活に目途(めど)がつき、民間レベルで異世界転移が認められたことで、色々な問題に気づく余裕が産まれた。


 そこでネットを通して売る心算だった金貨銀貨の販売を中止し、パンデミックの恐れを忘れていたと言う理由を丁寧に掲載した。もちろん資金源の1つを停止できたのは、動画投稿による収入が1カ月で1億円を超えると予測できたことが大きい。動画投稿収入が低ければ、とてもではないが他人の事まで考える余裕はなかっただろう。


 マス塵がここまで取り上げた以上、日本政府も動くかもしれない!

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