第31話迎撃

「バルバラ、10兵程が山側を登って後方に出ようとしている」


「分かりました」


 俺がスマホを使って指示をだすと、バルバラは即座に反応し、姉妹に指示を出す。


「べアトリクス、10兵連れて迎撃して、全員斃(ぜんいんたお)したら敵の側面に出でて攻撃して」


「分かりました」


「ビアンカ、次のドローンを現場に誘導して」


「は~い」


 そろそろ交代の機体を用意しておかないと、電池切れで墜落してしまう。まあ優秀なプログラマーに、電池切れ前に自動的に帰還するように入力してもらっているから大丈夫だとは思うけど、状況によっては安いドローンを運用する場合もあるから、普段から自分ですべて運用できるようにしておくべきだ。


 今回の索敵は、俺とビアンカで行う事になった。まあはっきり言って、2人とも最前線では戦力外の役立たずでしかないが、後方でドローンを操作するだけなら十分役に立つ。ビアンカはドローンに並々ならぬ興味を示したので、1万7700円で遊び用のドローンを買ってあげた。するとドローンの操縦にド嵌まりして1日中飛ばし続けて、いつの間にか姉妹で1番のパイロットになっていた。


 まあ他の姉妹は軍事政治に役割があり、遊びとも言える操縦訓練の時間が取れなかったと言う面もある。


「遊撃の10兵は全滅させました、今から敵主力の側面を攻撃します、なお装備品の剥ぎ取りは後で行います」


 べアトリクスが配下の兵を引き連れて、敵主力に対して遊撃を加えると報告してきた。貧乏騎士家出身らしく、斃(たお)した敵の装備品や衣服を戦利品とすると言っている。どうもこの異世界では、衣料品がかなり高価なようだ。まあ全て手作業で、糸を紡ぎ布を織り染めて仕立てるのだから仕方がない。よほどの金持ちで無ければ、布を染めることすら出来ない世界だ。日本でも昭和初期の農家なら、半纏を作れたことがうれしくて、記念写真を取ったと聞いた事がある。


「バルバラ、反対の山にも10兵程度の敵が登り始めた」


「分かりました、ブリギッタ、バルドゥイーンと弓兵5人を連れて仕留めて来て、終わったらそのまま弓で敵主力に側面攻撃をして」


「分かりました」


 バルバラは、四妹のブリギッタに弓兵をつけて迎撃させる気だ。最高機密で高価なスマホは、ローゼンミュラー家姉妹しか使えない。いくら譜代の従士であろうと、家の浮沈にかかわる重大機密品を貸し与える訳にはいかないだろう。従士隊を分派する場合は、指揮官は姉妹の誰かにするしかない。


「バルバラ、もうよかろう!」


「もう少し待ってください姉上様、作戦通り100兵が丸太橋を渡ったところで急襲し、分断した上で前衛を全滅させます」


「え~い、攻め込むならもっと威勢良く攻めてこい!」


 スマホを通して聞いてもデカイ声だ!


 アーデルハイトは早く突撃して敵を粉砕(ふんさい)したいようだが、ドローンで相手の装備を確認すると、明らかに盗賊団とは思えない立派な装備の者がいる。日本人の俺が見ても、アーデルハイトと同じ騎士鎧(きしよろい)に見える。真正面からぶつかれば、騎士がアーデルハイトしかいないこちらは不利のようにおもえる。まあアーデルハイト自身だけでなく、姉妹も従士たちもアーデルハイトは一騎当千と自慢していたから大丈夫かもしれないが、自慢していたバルバラが自重を指示しているのだから突撃しては駄目だろう!


「姉上様、今です!」


 どうやら伏兵が丸太橋を上手く落としたようだ。これは俺が迷い込む前から築き上げてきた迎撃作戦だ、領民従兵だけでも成功する作戦に、歴戦の専業従士が加わったのだから成功間違いなしだ。


「ウォ~!」


 アーデルハイトの雄叫びうるさ過ぎる!

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