第20話動画撮影投稿

「おにいちゃん、くろこしょうとりにきた」


「前室に置いてあるよ」


「はい、もっていくね」


「ああ、金貨と交換してもらって」


「わかった、あとでどろーんをよぶの?」


「何か食べたい物があるの?」


「あのね、いもけんぴがたべたいの」


「ああ、芋ケンピならまだここにあるよ」


「いまたべていい?」


「いいよ」


「ビアンカ、黒胡椒が必要なのだ、先に入らせてくれ、芋ケンピは後でゆっくり食べていいから」


 前室のドアで、アーデルハイトたちが騒いでいる。俺が彼らに恐怖を覚えてから今日まで、食堂に置いたノートパソコンから姉ちゃんが全ての交渉をしてくれた。


 ホールの一部を仕切って作られた急ごしらえの俺の部屋は、さらに2部屋を増やして、俺がアーデルハイトたちと会わないで済むようにしてくれた。俺が常にいる居室が最初に作られた部屋で、その前にドローンで配達された品々を置く倉庫が新たに作られ、さらにその前に前室が作られた。


 アーデルハイトたちが入ることを許されたのは前室までで、倉庫や居室に入れるのはビアンカだけだ。今では彼女だけが、この異世界で心許せる存在だ。


 わずか7歳の彼女に手を引いてもらって、ようやく表に出る事ができる。そして異世界の騎士館や砦の内部を撮影し、動画として投稿することで生活費を稼いでいる。


 だが人族だけの、異世界の地味な中世砦内の動画では再生回数は増えない。だからローゼンミュラー家の姫たちに、騎士・従士・魔法使い・僧侶の服装をして撮影させてもらった。当然近づくのは無理なので、騎士館前で訓練している姿を遠隔撮影するだけだ。


 だがこれが動画再生回数に大きく影響した!


 アーデルハイト・バルバラ・べアトリクス・ブリギッタ・ビアンカの5人姉妹は、同じ両親から産まれたにもかかわっらず、髪の色も瞳の色も違っている。姉ちゃんが聞きだした話では、異世界人は1人1人加護を受ける精霊がおり、その特徴を受けた髪と瞳を授かるのだそうだ。


 地球でもカラーコンタクトとヘアマニキュアやヘアカラーはある。だが精霊の加護を受けた異世界人の髪と瞳は、内側から光り輝いていた。しかも悔しいが、ローゼンミュラー家の5姉妹はそれぞれ際立った魅力がある。


 今回も盗撮のようにはなるが、前室に備え付けたビデオカメラで、11kgの黒胡椒を運ぶ5姉妹をアップで撮影することになる。俺の対人恐怖症が完治するまでは、この方法でなければ近距離撮影は不可能なのだ。


 ああ、もちろん純真無垢なビアンカだけは例外だが、彼女の動画を投稿する事だけはできない。そんな事をすれば、彼女が汚がされてしまうからだ。


「おにいちゃん、おねえさまたちがうまにのるよ」


「ああ直ぐ行くよ」


 4姉妹と警護の兵は、ローゼンミュラー領から最も近くにある冒険者都市・ハナセダンジョン都市に黒胡椒を売りに行くそうだ。そこ以外では高額すぎて、11kgもの黒胡椒を売り払う事は不可能なのだそうだ。それに姉ちゃんが交渉して購入することが認められた、獣人家事奴隷を大量に購入出来るのもそこだけだそうだ。

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