第49話 1人目

最上階まで着くも、普段は1階しか居ない為、左右どちらに進むか分からない。


階段付近で、あたふたと迷っていると、後ろから左を掴まれた。


「やっと、捕まえた。」


霊子を見つけた途端、腹部を目掛け、足を蹴りあげる。


「うっ」


お腹を手で押さえ、膝を着き、痛みに耐え歯をくいしばる。


霊子の右手を引き、立ち上がらせる。


咄嗟に両手を伸ばし、突き飛ばしてしまった。


理枝は飛ばされ、階段から足が外れた。


霊子に縋るように手を伸ばすも、その時の表情は虐めている人に向ける顔ではなかった。


霊子は手を伸ばさず、笑顔を向けた。


記憶の感情が表に出た、一瞬の出来事だ。


飛ばされた理枝は、頭から落ち、首の骨は折れ、既に魂の抜け殻になっていた。


霊子は、階段から突き落とすつもりはなかった。


いじめから逃げたくて、苦しみから逃れるため、突き飛ばしただけ。


ただ、この瞬間、運命は動き出す。


かつてないほどの、血と命を落とす聖域へと変貌する。


「あ、っあぁぁぁぁぁ」


理枝の生気のない顔は、もうこの世顔ではない。


霊子の頭の中に、映像が流れる。


200年前。1800年 7月。


霊子にそっくりな少女が、学校内で理枝と思わしき人物に水やゴミを投げつけ叩かれている。


その映像は、僅か4分程の事。


「今の私?虐めてたのは理枝?もしかして死んだから見えた?いや、私が殺したから?」


理枝の落ちた音を頼りに、彩が走ってきた。


「何、今の音?」


彩は、霊子の目線の先を見た。


「うわあぁぁぁな、何!死んでるの理枝?」


腰を抜かして尻餅をつき、怯え叫ぶ彩。


霊子は意識が段々遠くなると同時に、戦慄の鎮魂歌が頭に流れ、眼前に映る罪人に届くように歌う。


「ピートントンピートントンピートントンピートントン」


「な、何、歌ってんだよ?」







  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る