第43話 1人目

音楽室に着き、荒い吐息を立てながら、慌てて扉を勢いよく開け入っていく。


「大丈夫か?」


室内にも走る音が響き渡っていた為、里奈達は構えて戸の方に視線が集中していた。


正木に続いて友希が来た。


慌てていた為、何かあったかと思い、真に迫る感じで正木に駆け寄り聞いた。


「先生にばれたの?」


慌てた素ぶりもなく、淡々と答える


「いや、吉沢先生はいなかった。」


明確な答えではない事に、少し怒った感じで声を上げた。


「じゃあ、なんで慌ててるの?」


その言葉で里奈達は何でもなかった事に気づき、無事に帰れた実感が沸き起こる。


言いづらそうに頭に手を回し、作り笑いを振る舞った。


「いやー、そのー、心配だったもんで」


怒りが頂点に達し、凄い形相で喋る。


「馬鹿じゃないの?あんな此処に居る事が、ばれるように走ってきて」


誇らしげに右手の写真を、みんなに見えるように前に出した。


「俺達も必死だったからよ。写真はちゃんと持って来たぜ!」


2人のやりとりを見ていた友希と瑠璃達は、会話に加わろうとはせず、状況が飲み込むように終始ぽかんと見ていた。


もう少し言いたかったが、無事だった事が何より嬉しくて、安心感を与えてくれた。


皆は正木の元に集まり、写真を凝視した。

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