第29話 1人目

恐怖が、足の爪先まで染み渡り、上手く言葉に出来ない。


「あ、あるわけないでしょ!霊子が来てまだ2日目だよ。」


恐れを取り除く手段は、ない。


少しでも拭い去る為、大声で叫ひわ声を出すしかなかった。


それだけでは、まだ体から出て行く事はなかったが、何とか自分を保つ事が出来た。


里奈は正面にいる瑠璃の姿を見て、まるで自分まで恐れていた気持ちが、ひしひしとゆっくり確実に伝わり、二重の恐怖にさらされていた。


普段何事も動じる事のない瑠璃の怯えた姿は、里奈にとってどれだけ緊迫した自体なのを、 気づかせた。


瑠璃の握っていた写真立てから、写真を取り出し裏返し日付を確認した。


1800年09月04日学園祭と書かれていた。


恐怖は、最高潮にまで高まる。


絶望に似た恐れは、声を言葉にすることさえ出来ない。


里奈の悲痛なる言葉のない悲鳴。


「あ、あああ。」


恐る恐る、里奈の目線の先を、覗き込む様に写した。


「1800年?今から200年前の写真って事?」


動揺からの動揺で、恐怖を恐怖で塗り潰され、体は死体の様に冷たくなっていった。


2人は永らく吉沢先生が、職員室に戻って来る部屋だという事さえも忘れ、暫くの間震えた体から冷たさといつもの自分が戻って来る事を、何かに縋るよう願いながら、ただ呆然と佇んでいた。


鐘が学校全体に鳴り響く。


その音は、里奈と瑠璃に我に帰らせた。


「やばい。こんな所吉沢先生に見られたら!」


里奈は急いで写真を入れ、たて掛け直す。


「行こ!瑠璃。」


伸ばされた手を握り、ひたすら懸命に走った。


「もう、大丈夫だよ。」


職員室から大分離れた更衣室の前まで行き着き、荒い息使いを落ち着かせる。


瑠璃から、息遣いが荒いまま声をかけた。


「はぁはぁ、あれはとりあえず誰にも言わないでいよう!」

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