Ⅳ.人形は舞台で踊る

手記:人形について

 第一に、人形ドールには通常の攻撃は意味をなさない。

 同格の存在ではないためか、銃弾も剣撃も魔術も、彼らの皮膚に痛みやダメージを与えることはあれど、その損傷程度は軽く、手で叩かれたレベルのものだ。つまり、殆ど効かない。

 ホムンクルスであれば身体が吹き飛ぶような攻撃も、ゴーレムであれば身体が崩れるような攻撃でも、人形ドールであれば全く退くことなく、自身の身を守ってくれるボディーガードとなる。

 これが、内部争いの絶えぬ魔術師にとって、どれだけ有益か。書かずとも読み取れるだろう。

 彼らには、同格の存在である人形ドールからの攻撃以外、何も効かないのだ。


 第二に、人形ドールが魔力を用いて発動する固有能力スキルだ。

 彼らが持つ、最高にして最大の切り札。空前絶後の超絶技。

 彼らそのものは、魔力や魔素を魔術として扱えないため、その代わりとしてかこのような機能が備え付けられている。

 人形ドールの人造霊魂の元の魂オリジナルにまつわる人生・伝承・逸話、愛用した武具・装飾品などを、固有能力スキルという形でイメージを固定化、そして大量の魔力で結晶化したものだ。

 その能力も様々で、対単体・対複数・対心など力を発揮する場面によって、使い分けが出来る場合もある。

 ホムンクルスや使い魔の小手先の魔術や、土人形ゴーレムの能無しの攻撃に比べ、何と有用な能力か。


 そして第三。これは私個人の魔術研究にも関係するが、謎に覆われた「全知なる記憶層アカシックレコード」を暴く術を見い出せることだろう。

 恐らく人形師の始まりは、「全知なる記憶層アカシックレコード」を暴くことであったのではないだろうか。あくまでも人形ドールはその研究の内に生み落ちた、いわゆる副産物に過ぎなかったのでは。

 「全知なる記憶層アカシックレコード」と名称を打っているが、それはあくまでも仮称で、実際の名前もその実態も、未だ謎に包まれている。

 そもそも、その場所に生者は行けない。

 その場所は、世界(ここの「世界」は私達の世界ではない、多元世界的な「世界」である)の魂が行きつき、それぞれが持つ魂の記録を写し取られ、再びどこかの世界で生を受けるまでの滞在場所であるからだ。

 我々魔術師が追い求める「世界の原初」。

 それを手に入れる手段として、全ての魂の帰り着く場所である「金に輝く幻想郷」を探る。

 そうすることで魂の流れを観測すれば、ウロボロスの蛇の尻尾の先……あるいは口の中——すなわち「世界の原初」を覗くことになるのではないか。


 私はそう期待している。

 だから今日も、私は人形ドールを作るのだ。

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