其の百五 大切な人の墓参りは、毎年行った方が良い。あなたがやめてしまうと、その人はその時に死ぬ


 声がした方に、バッと目を向ける。

 五メーター程の高さの枯れ木の上……、太い枝にちょこんと腰を掛けた白髪の少年が、無垢な瞳で僕らのことを見下ろしていた。



 「……墓参り?」



 ――いぶかし気なトーンで声を返したのは『如月さん』で、僕はその時、急に降ってきた声と、異形な少年な登場と……、混乱に混迷を重ねた頭で、少年の放った台詞に、即座に反応することができなかった。



 「――そうだ、こんな何も無い山奥の村にやってくる奴なんか、廃墟マニアか、亡くなった村人の関係者……、大体がそのどちらかだ。見るところ、お前らはカメラという奴をもっていない、だから、墓参りかと尋ねたのだ」



 見た目の幼さにそぐわず、少年は気丈な態度で言葉を連ねた。気圧されている僕とは対照的に、如月さんはいつものクールな無表情のまま、突然の邂逅かいこうに一切の委縮も見せずに、淡々と会話を続ける。



 「……いいえ、私たちは、その、『どちら』でもないわ。別の目的があって、この村にやってきたの。……それより、あなたは何故こんなところにいるのかしら? 口ぶりからすると、ずっとこの村に居るように聞こえるのだけれど」


 「何故? 何故もクソもない、ワシは、ここに居るから居る、ただ、それだけだ」



 気丈な姿勢を崩さぬまま、煙に巻くような発言をのたまい始めた少年に対して、如月さんが首を斜め四十五度に捻る。何を言っているのかわからない、って表情だった。……無理もない、如月さんが聞きたいのは、『そういうこと』ではないはずだ。


 ……それにしても、「ワシ」って――



 雰囲気といい、佇まいといい、口調といい――


 少年の『存在』は、どれをとっても『不自然』だった。

 明らかに五歳児くらいの見た目なのに、何か、百年以上生きている長老と話しているような……、不思議な風格を漂わせていた。



 「――ん? んん? ……んんん?? ……よく見ると、お前ら――」



 高さ五メーターくらいの枯れ木の枝から、ヒョイっと、なんでもないように飛び降りた少年が、スッと、音も無く着地した。

 唖然とした顔で、口をあんぐり開けている僕の顔を、少年が覗き込むように見やる。近くで見た少年の頬は真っ白く、一切の歪みの無いその肌は、生きている人間のソレとはとても思えなかった。白髪のおかっぱを揺らしながら、灰色の瞳を細めながら、少年が、なんでもないように、ポンッと、言葉を放る。



 「……お前ら、『色眼族』じゃないか。それに、お前は――」




 ……えっ――




 「――色眼族を知っているの!?」



 少年の眼前……、僕は大声と共に大量のツバをまき散らす。思わず顔をしかめた少年が、非難めいた目つきを僕に向けた。



 「……知ってるも何も――」



 眉を八の字に曲げながら、ふぅっと短くタメ息を吐いた少年から発された『台詞』は――



 「――人間に、色眼の力を与えてやったのは、このワシだからな。知らんはずが、あるまい」



 およそ、耳を疑いたくなるような、

 『吃驚きっきょう』の、一言――



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