其の八十四 魔法の力でハッピーエンドを彩ることができるのは、物語が持つ最大の強みである
――眩い月が不穏に世界を照らす、木曜日の夜。
幾多の自動車が、無遠慮に行き交う大通り。
やるせなく赤信号待ちをしている僕の眼に映る風景――
手に持っていた風船を手放してしまった『女の子』が、
『ソレ』を追いかけるように車道に飛び出し、
二つのライトをギラリと光らせる、『大型トラック』が――
女の子に向かって、『突っ込もう』としている。
…
……おい。
――おいおいおいおいッ!?――
果たして、僕の両眼が女の子の姿にくぎ付けになる。
「キィィィィィィッ!!」と、急ブレーキのかかる音が耳をつんざく。
……トラックと女の子の距離……、5メートル……、くらいかな…………?
…
……間に、合わ、ない、……ダロ――
――ゾワッ……。
――ダァァァァァァァァンッ!! ……と、『衝撃音』。
――無惨にも吹っ飛ばされ、グニャリと、歪な方向へと首が折れ曲がった『幼子』の『残骸』。
――空中に舞い散る、どす黒く朱い、おびただしい『血しぶき』……。
――すぐそこまで『やってきそうな』最悪な未来が『イメージ』と化し、僕の脳内へ無遠慮に流し込まれる。
喉が封鎖される、呼吸ができなくなる、動悸が激しく揺れる、視界が眼球の奥から引っ張られる。
――グルグルグルグルグルグルグルグル ――
頭が廻る。
セカイがメグル。
――グルグルグルグルグルグルグルグル ――
――僕の『マイナス思考』が、世界との『リンク』を始める――
※
「やぁ」
――……。
「……やぁ、聞こえているんだろう?」
――…………?
「……返事は、しなくていいや。 ……一つ、確認だけど、キミは今、『あの女の子を助けたい』と思っているよね?」
――えっ…………?
「……『イメージ』するんだ、強く強く……」
――イメージ…………?
「……そう、『イメージ』だ……、果たしてキミなら、『あの女の子を救う』ために、この後どんな世界を描いたらいいと思う……?」
――えっ、どういう――
「……テンパってる時間はないよ……、たまには、自分の人生を、『人のタメ』に使ってみたらどうだい? 水無月、葵――――」
――ちょ……、ちょっと……ッ――
※
――ダァァァァァァァァンッ!! ……と、『衝撃音』。
――無惨にも吹っ飛ばされ、グニャリと、歪な方向へと首が折れ曲がった『幼子』の『残骸』……、
――は、少なくとも僕の眼には『映っていない』。
泣き叫びながら車道に飛び出し、我が子を抱きしめる若い母親と、
『大型トラック』の運転席から飛び出し、慌てた様子でなにかをまくし立てているおっさんと、
『わけがわからない』と言った様子で、呆けたように立っている女の子――
――果たして、『惨劇』は起こらなかった。
……その『数秒前』、僕の眼に『映った』風景――
いまにも女の子に突っ込み『そう』だった大型トラックの『目の前の道路』が、
突然『陥没』し、地面に『大穴』を開け、
くぼみにタイヤをひっかけた大型トラックが、『轟音』をまき散らしながらスリップし、
――間髪、女の子の『眼前』で、『急停止』した。
街の喧騒が、僕の意識を呼び戻す。
『何事か』と様子を見に来た近隣の住人達が、あっという間に大通りに溢れかえる。
たまたま『トラック』に後続していた自動車が無かったため追突事故は免れ、
……だがしかし、『走路』を失った『車たち』が、ドミノのように隊列を為し始めている。
…
…
……いや、っていうか、そんな事、『どうだっていい』。
――果たして、僕は『懇願していた』。
…願わくば、無邪気にはしゃぐ幼子の『物語』を、
無慈悲で無作為な『運命のイタズラ』によって、誰も幸せにならない『バッド・エンド』で〆るのは勘弁してくれと――
――果たして、僕は『イメージしていた』。
……もし、あの地面にボコッと『大穴』が開いて、大型トラックの勢いを『殺す』ことができたなら、凄惨な悲痛な彼女の『未来』を、グニャリと、『違う運命』に曲げることができたなら――
僕の頭を支配していたのは、
一つの、信じられない、『仮説』。
……『青眼』の使命は……、世界を、滅ぼすことのはず…………。
――僕の『マイナス思考』が、女の子を、『助けた』………?
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