其の四十八 現代に二宮金次郎が蘇ったとしたら、きっと歩きスマホでポケモンGOをやっているはず


 すっかり暗くなった秋の夜道を、一人トボトボと歩く。



 あの後――


 不知火さんは、意味深な『問い』を僕に対して投げかけた後、特に話を展開させることも無く、「そろそろ帰ろっか」と『放課後デート』の終焉を唐突に告げた。

 お互い近所に住んでいる僕たちは、公園を後にして適当な曲がり角までやってくると、「それじゃあまた明日」と乾いた声で挨拶を交わした。

 公園で見せた物哀しい雰囲気はどこへやら、彼女の様子はいつもの『おっとり美女、不知火 桃花』に舞い戻っていた。


 トボトボと歩きながら、独り考える。


 

 ……不知火さんが、今日僕を誘った理由って、結局『何だったんだ』……?



 僕は直感的に、『不知火さんは何か狙いがあって、今日僕の事を誘ってきた』と思っていた。

 何故なら、共通点も無く、特に親しいわけでもなく、異性としての魅力に溢れている『わけでもない』僕を彼女が誘う理由が見当たらなかったからだ。


 ――それに、これは彼女本人も言っていたことだけど、彼女は『他人に対して壁を作るタイプ』の人間だ。僕と同じで、『他人と繋がること』をなるべくしないように生きてきたはず。


 そんな彼女が、何故――



 ……もしかして、『狙いがあった』って僕が思い込んでいるだけで、単純にケーキを誰かに奢ってもらいたかっただけとか。

 ……いや、それなら、ケーキを食べた後に『公園に誘った意味』がわからない。公園で彼女がした事といえば、彼女の『昔話』と、『意味深な問い』だけ。

 ……話を聞いてもらいたかった? …うーん、そうだとしても、なんで僕なんだろう。


 …


 …


 …


 ……あっ……。



 グルグルと、思考のループにハマりそうになっていた僕の元に、

 天啓の如く、頭に飛び込んで来た『ある仮説』



 ――僕が気づいていないだけで、彼女の『狙い』は、『実は果たされていた』んじゃ――



 その仮説に、高い確度での手ごたえを感じていた僕は、

 『目の前を向いて歩く』という、当たり前の行為に意識が向かなくなり――



 ――ゴンッ


 「――あ痛ァッ!」



 ――果たして、強打。

 僕は、まごうことなく、『電信柱』に頭をぶつけた。


 

 ……いてて、考え事しながら電柱に頭をぶつけるとか、サザエさんじゃないんだから……、誰かに、見られなかっただろうな。



 僕は頭をさすりながら、キョロキョロと周囲に目を向け、様子を窺う。



 ……うん、誰も居な――



 ――サッ――


 ……居な――、……えっ?



 ある場所に 、僕の目線が『釘付け』になる。


 僕がぶつかった電信柱の少し後方……、

 二メートル程離れたその場所、

 Tの字からなる『曲道』……。


 僕の見間違いじゃなければ、

 その曲がり角の陰から、

 『こっちを誰かが見ていた』気がする。



 …


 …


 …


 ――怖いんですけど!?



 僕が思いついた、『この後僕がとるべき行動』の選択肢は、主に二つ。


 一、曲がり角まで戻り、真偽の程を確かめる

 二、無視して、このまままっすぐ進む。


 


 ――いや、『一』は無いな、怖すぎる。


 陰から僕のことを『覗き込んでいた』人物が、

 ストーカーにせよ、探偵にせよ、CIA特殊工作員にせよ、

 出くわしたところで、百害はあっても一利があるとは到底思えなかった。


 ――っていうか、『僕の見間違い』っていうセンが一番可能性としては高い気がする。


 うん、そうだ、『見間違い』だ。『見間違い』ってことにしよう、そう結論付けよう。

 『見間違い』だったんなら、わざわざ確認する必要なんてないよね!


 臭いモノには蓋、見て見ぬ振り、寝耳にウォーター。

 ……最後のは違うか。



 沸いて出た『疑念』をムリヤリ晴らした僕は、軽快な足取りで、秋の夜道を歩む。

 頭の痛みも、不知火さんの『狙い』の事も、忘れ呆けて――



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る