52話「紡がれた雄鶏」
「助けに来たつもりが、助けられたなぁ……」
墜ちる金色の上位飛竜と、辛うじて降下していくクライスターを見下ろしつつ。どうにもボブさんには叶わないと改めて思う。
ナーちゃんの話から考えるに、ボブさんは一晩戦闘機動を続けたことになる。
それが出来るかと問われると、僕には難しい。
ライズルースターなら無理、
本当に長く飛ぶという点においては、ボブさんは師匠より上かもしれない。
(さて、
視界の端と、まだノイズが混じる
何かが装甲をかすめる感覚の後に、
南方第13開拓区を襲った銀の
(装甲の厚みを見分ける程度の知恵と、狙いをつける技量があると)
ナーちゃんからの話で分かってはいたけれど、これはちょっと厄介だ。上位竜とはそれこそそのパワーだけでB級
「じゃあ、これでっ!」
翼から魔力を
間違いなく暴挙。並の竜殺機兵に匹敵する必殺武装を致命傷にならないタイミングで、牽制の為に手放すのは割が合わない。
だが、明らかに竜の動きが変わる。虚空を貫く突撃槍を横目に嘲笑う顔をして。加速もそこそこに、再びこちらに突っ込んできた。
「そりゃ、相手に武器が無きゃ。そう動きますよね?」
唇が渇く、心拍数がドキドキと跳ね上がっていく。突撃に特化したライズルースターは根本的に機動戦に向いていない。
けれど、ここで離脱しようにも強力なブレスを持つ上位飛竜相手に自殺行為。
だから、ここで狙うは――
「カウンター、今っ!」
操縦桿を押し込み。背面に装備したハルバードを振り上げて、向かってくる上位飛竜の下あごに全力を持って叩き込む。
地上だと地面に阻まれ不可能なそんな無茶な振るい方でも、遮るものが何もない空中なら実現出来て。
ハルバードの峰側から突き出した
銀色の竜が吠える。
下手に知恵があるから、こんな浅い駆け引きに引っ掛かってしまうのだと
「このまま、喰らいつくっ!」
ハルバードを振るい、宙を舞う。
だから絶対に離れない。
幸い、重さは此方の方が重い。敵が体勢を整える前に手首を翻し長柄を振るう。
打撃や斬撃よりも鉤爪でひっかける事を意識する。暴れる飛竜の爪や牙が装甲を叩くけれど、そんな悪あがきの一発や二発でライズルースターの装甲は貫けない。
三発、四発と重ねられれば分からない。けれど条件は銀の上位飛竜も同じ。
ダイムが作り上げた機体のトルクは加速しなくとも上位飛竜に十分な打撃を叩き込めると信じ。宙で華麗に舞うことなく、墜ちながら泥臭く殴り合いを続けて――
「この、タイミングっ!」
パワーでは負けない、だから相手を文字通り大地に叩き落す。
地面が見えた瞬間、銀の飛竜が舞い上がれないその時を見逃さず。全力で操縦桿を押し込んで、ペダルを踏みこんで竜炉の出力を限界まで引き絞り。
誰に見せるでもなく。いや眼前の敵を睨みつけるよう、ライズルースターの瞳を赤く三度光らせて。
左右の肩に据え付けられた
夜明け前の空に、ライズルースターの咆哮を響かせる。
銀の飛竜が叩きつけてくる爪はもう気にしない。多少のダメージは許容して、ただ大地を目指して出力を限界を超えて上げ続けていき。
神経が燃え、脊髄にしびれが走り。けれどそれですら心地よいと感じる
けれど、そんな至福の時間も長くは続かない。大地が迫る。銀の飛竜が足掻く。
それでもレイダム団長に仕込まれた、もとい文字通り体に刻んでもらったハルバードの技はこの極限状態で敵を逃がさない。
まぁそれはそれとして今度戦う時は、一矢報いれたらいいなんて余計な事を思いつつ更にペダルを踏みこんで、
暴力的な衝撃と共に。僕は銀の上位飛竜を下にして、強引に荒野に舞い降りた。
流石にそこまで壊れれば、動作の遅延や誤作動の可能性は生まれると注意されたけれども。今みたいに2~3個灯った程度なら無視できる範囲であり。
そして、大地に叩き付けられた銀の上位飛竜がもがく。この状況でも何かをしようとあきらめず。こちらに口を向けようと身をよじる前に――
ハルバードで上段にから一撃を叩き込めば、銀の竜が顔を砕かれ悲鳴を上げる。
「悪い、とは思わない。手を抜けば、僕がこうなっていたから」
竜の柔らかい腹にライズルースターの爪先に
手加減はしない。ここまでやっても、まだ敵には勝ち目が残っている。
それこそ、今この瞬間姿勢を崩せば。すぐに飛び上がり、圧倒的な加速力で上を取ったまま一方的な蹂躙に持ち込まれてしまうのだから。
レイダム団長から身をもって学んだ技術をトレース。操縦桿を振るい、スクロールに刻まれた動作をもってハルバードを叩き込み、叩き込み、叩き込んで。
竜の血が大地を染めて、むせかえる鉄の香りが操縦席に漂い。僕の視界の半分以上が
僕はノイズの混じる
「ほんと、もっとスマートにやれればって思わなくはないんですけど……」
気が付けば、朝日と共にボロボロの
「うん、まぁ。こうやって何かを守れたって実感は」
荒野にぽっかりと広がる割れ目、そこに収まっているほんの少しだけ訪れた街。そこで少しずつ出てくる人々の姿と声。
訪れた夜明けを心の底から喜んでいるのが伝わってきて。
これが自分一人の手柄だとは口が裂けても言えない。ボブさんが足掻き、ナーちゃんが繋ぎ。何よりダイムが組み上げた機体と、レイダムさんや師匠から継いだ技が無ければあり得なかった光景なのだけれど。
それでも最後にバトンを受け取り、綺麗に勝利という名のゴールに向かうアンカーを務めあげた事はちょっとだけ…… いや、間違いなく誇ってよい事だと思って。
僕は高く、高く。半ば砕けながらも役目を果たしたハルバードを空に掲げた。
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