第91話金糸雀倶楽部に潜入


 潜入捜査に連れて行ってやる、と言っていたのでてっきり討ち入りの時に私も後方で手伝いでもするのかと思っていた……ら、違った。

 私、金糸雀倶楽部に顧客として行くみたい。


 え?顧客?金糸雀倶楽部は表向きは、「紳士の集まり」なので顧客として入り込むには不向きなんだけどなぁ。


 アフシャールが、ナジュム王国出身の豪商という設定で、金糸雀倶楽部の会員になる。私は、アフシャールの愛人の美少年役。金糸雀倶楽部では、アフシャールが、美少年と美女に囲まれて爛れた時間を送りたいから、という設定みたい。


 愛人の美少年って、そんなにうまく行くのかしら?


 普段しているまつげを強調するようなメイクではなく、アイラインを強調し、唇の色をベージュに変える。髪型は、少年らしく後ろで一つにリボンで結ぶ。服装は、体のラインが出にくいスタイルへと変えられた。


 私の姿を見に来たシャールーズが大爆笑していたので、とても似合っているのだろう。




 ランカスター王国に戻ってくるのは、久しぶりだ。雪もそろそろ溶け始める。春が来たら、私は帰国し、初夏に卒業式を迎える。

 ゲームでは、卒業式を迎えた次の日に、悪役令嬢のジュリア・デクルーは処刑されていた。

 今の状態であれば、即日処刑っていうことにはならないと思うけれど、油断は禁物だ。


 金糸雀倶楽部への入会は、ナジュム王国人だと難しいので、ランカスター人の富豪に紹介してもらって入会することにした。アフシャールはナジュム王国の豪商っていう役どころだけれど、ちゃんと豪商に見える。

 金糸雀倶楽部の建物は、王都の高級住宅街から伸びた高級商品を取り扱う商店街の近くにある。伝統的なランカスター王国の建物で、重厚さがある。

 アフシャールがノッカーで扉を叩くと、男性の使用人が扉を開けた。アフシャールが名前を告げて中に入る。私も続けて中に入ろうとすると、使用人に止められた。


「これは、僕の恋人だ。今日は、二階を三人で楽しもうと思っているんだ」


 アフシャールが私の手を引いた。金糸雀倶楽部の二階は、高級娼婦店になっているのは会員しか知らない秘密だ。

 三人ということは、アフシャールと私、そして高級娼婦を買うということを使用人に暗示したのだろう。


「コインはお持ちいただいてますか?」


 金糸雀倶楽部に入会したときに、符丁用にと、特殊なコインを渡された。表にも裏にも表の模様のあるコインだ。


 アフシャールは、それを使用人に渡す。使用人は確認した後、二階へと案内してくれた。


 部屋の中央にある螺旋階段を上がると、二階へと通じている。一番広い部屋に女の子達が着飾って座っていて、そのほかの個室は、お楽しみ部屋ということらしい。

 アフシャールは、使用人から空いている部屋の鍵を渡された。


「お帰りの際は、カウンターに鍵を提出してください。それでは、ごゆっくりお楽しみください」


 恭しく使用人は一礼をして、一階へと戻っていった。


 中央の部屋へアフシャールと二人で入った。豪華なドレスを着て、着飾っている少女達が思い思いに座っている。みんな一様に表情は暗い。

 私は部屋を見渡したが、事前に聞いていたマルヤムと同じ特徴の少女はいなかった。まさか、客を取っているのか……?


「ジャムシド、好きな娘を選んで良いよ」


 ジャムシドとは、私の偽名だ。男の子っぽいナジュム王国風の名前を付けられた。


「うーん……どうしよっかなぁ」


 女の子の顔を覗き見るようにしながら、部屋の中を歩く。どの子が色々と簡単に情報を話してくれそうなのか、というのと部屋の造りの確認をする。この部屋は妙な隠し部屋とかはなさそうだ。

 女の子の出身地もバラバラだと思う。私はナジュム語、アーラシュ語それぞれの言葉で、「僕に協力してくれたら、高く買うよ」と呟きながら歩く。

 一人だけ、ナジュム語で反応した子がいた。他の女の子達は、暗い表情のままだ。


「じゃ、君にしよう」


 私は、ナジュム語で反応した女の子を手を引いて連れてくる。肌はナジュム王国でよく見かける、小麦色の肌で、髪色が栗色。目の色も亜麻色なので、全体的に茶色っぽい印象だ。ここに攫われてくるだけあって、顔は整っている。


「君は、趣味が良いね」


 アフシャールがにこにこ笑って、私と私が選んだ少女を両手に従えて与えられた個室に向かった。

 他にも客はいるだろうに、個室で楽しんでいるまったく声がしないのは防音効果が優れているようだ。

 こっちにとっては密談をするのに好都合だが、どんなに酷いことをされていても、声が聞こえないから助けることも出来ないデメリットもある。


 与えられた個室は、一番奥の部屋だった。扉を開けると、わかりやすく部屋の中央に大きなベッドがあった。ちゃんと掃除はしているようで清潔そうだ。

 部屋としての格好を保つためか、飾り棚やソファが適当に並んでいる。ちぐはぐな印象を受ける家具類なので、体裁だけなのだろう。


「名前は?」


 三人でソファに座る。中央は、女の子を座らせる。


「ラーレフと申します。……可愛がってくださいませ旦那様方」


 この台詞、「言え」って言われてるんだろうなぁ。


 ラーレフは、深々と一礼した。


「ラーレフ、君にいつもの倍以上の金貨をあげよう。その代わり、俺たちの質問に答えてくれ」


 アフシャールは、まずは手付金、とラーレフの手の上に金貨を二枚置いた。

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