第83話ペンリン男爵の別荘へ
シャールーズのお願いによって、ペンリン男爵の別荘に数名のシャールーズの手の者が使用人として潜入した。秘密裏にお父様と交渉するなら、私に断りを入れなくても良いのに、とその時は思ったけれど、紹介状が必要になった理由が、酷かった。
デクルー家の我が儘お嬢様の横暴により、解雇になったという話になっていたのだ。
もう、暫くシャールーズのお強請りは叶えない!
「機嫌直せって、ほら、ジュリアに似合いそうな宝石だ」
紹介状が必要になった理由がでっち上げとは言え、私の横暴にする必要はなかったと思うんだよね!私は理由を知った日から、シャールーズと口をきいていない。
シャールーズは、機嫌取りにいつも以上に私に会いに来る。手には高価な宝飾品やドレスを携えて。いつの間に作らせたんだろう。オーダーメイドのネックレスで、たくさんの宝石が着いている物をシャールーズは、私の目の前に広げてみせる。
つーん。知らない。
私は、ついっとシャールーズから顔をそらす。
「物でつろうって言うのが気に入らないわ」
さすがに毎日、ギティの私の部屋に来るほど暇では無いはずだ。ここら辺で折れるか。
「どうすれば許してくれる?ジュリア」
ソファに座っている私に、懇願するように床に膝をついてシャールーズは私を上目遣いで見上げる。
「物で機嫌取られるは嫌。普通に謝ってくれれば良いのに」
シャールーズは、私の両手を包み込むように丁寧に両手で握って、私と目を合わせた。すまない、と囁くように言って、シャールーズは私の頬にリップ音を立ててキスをする。
私が頬の感触に驚いていると、シャールーズは優しく笑ってもう一度顔を近づけてきた。
もう一度、キスされる、と思って目を閉じる。シャールーズの唇が私の唇にそっと触れた。
●○●○
潜入捜査が始まって二週間、捜査状況に進展はなかった。ランカスター王国からやってきた、両親とルイに会ったり、仕事の合間を縫ったシャールーズとデートしたりしていた。
事態が急転したのは、ギティの滞在の最終週の始めの日だ。
シャールーズと一緒にマジカルツアーをしたときに見た魔法陣がなんなのか分かったのだ。あの魔法陣は転移魔法が使えるようになっている魔法陣で、違法では無い。転移魔法は難しい魔法になる上に、魔法陣での維持を安定させようとすると莫大な維持費がかかるので、普及していないのだ。
そんな魔法陣を使っている人が問題なのだ。使っているのはお屋敷の使用人だ。使用人がどこから連れてきたのか、後ろ手にロープで縛ったナジュム人を魔法陣へと誘導して、魔法陣を発動させ、魔法陣の上に乗っていたナジュム人をどこかに転移させたのだ。
この情報を持って、潜入捜査をしていた3名ほどがシャールーズ側に戻ってきている。
「あと少しで他の証拠が集められそうだが、仕方ない。討ち入りの準備をせよ」
シャールーズがてきぱきと命令をだしていく。この情報を潜入捜査官が持ち帰ってくるときに、ペンリン男爵の使用人に見つかってしまっていたので、逃げられる前に抑えるしかない。
シャールーズは私をじっと見た後、にやっと笑って言った。
「ジュリア、着いてこい」
私は、シャールーズの後について、ペンリン男爵の別荘へ向かった。
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