第81話不死者との戦い
骸骨に続いて、腐った死体まで出てきた。この周辺単なる砂漠じゃ無いの?
「さて、ジュリア、俺は火力のある錬金術の準備をする。その間、何をするか分かっているな?」
私はシャールーズほど錬金術の使い手ではない。シャールーズの錬金術がアンデッドたちに邪魔されないように前衛に出てシャールーズを守るしか無い。
今回、前衛には護衛達がいるのでその後方で、支援するのが良いだろう。
私は、剣舞で使っている色とりどりの飾り紐付きの剣を抜いた。
絶対、侯爵家の娘にやらせることじゃないと思うんだけどな-!
錬金術は基本的に魔法石などのアイテムに、膨大な力を込めて武器とする。発動条件は投げつければ錬金術が発動する物、コマンドワードによって発動する物など術者によって工夫されている。
魔法のように、次の動作が予想されにくいのが利点だ。
私は、護身用に持っていた身体の素早さを上げる魔法石を握りつぶす。これで少しは早く動ける。次に、剣に結んでいる飾り紐で、赤い色の紐を引っ張った。剣に魔法の炎が宿る。
護衛達が対峙しているゾンビを横から切りつける。剣の炎がゾンビの腐った肉に当たり、じゅっと焦げた匂いがする。
ゾンビがよろめいたところに、もう一度切りつけた。
「我の呼び声に答えよ!サラマンダー」
シャールーズが、金色の卵のような形をした錬金装飾具を地面に投げると魔法陣が空中に浮かび巨大な火トカゲが現れた。
シャールーズ、あんな恥ずかしいこと言わないと、発動しないようなアイテム作ってるのね。
魔法陣が空中に浮かび上がるのだって、あえてそう表示されるように別の錬金術を重ねている。火トカゲを出現させるのに、あんな演出は基本的にいらない。
そもそも、あの火トカゲ、本物のサラマンダーじゃなくて錬金術で合成した炎の塊なんじゃないかな。
俺の考える格好いい錬金術、を現実に作ったって感じがする。錬金術の才能をこんな方面に伸ばしてたのか。
火トカゲは、大変賢くて切り結んでいる私たちとアンデッドの区別つくようでアンデッドだけを丁寧に火あぶりにしていた。
ものの数分で、出現したアンデッドを倒すことが出来た。
倒し終わると、シャールーズが「戻れ」といって火トカゲを先ほどの金色の割れた卵に戻していた。卵の割れ目がすすすっと消えていく。
あの卵、再生するんだ。
「今回は数が少なかったな」
シャールーズが被害状況をまとめるように指示をする。たぶん、そんなに重傷者もいないんじゃ無いかな。
「さて、ジュリア気がついたことがあるだろう。あのアンデッドで」
「残念なことに、あのアンデット達は全員ランカスター王国人ね」
レイスはどこの国の人か分からなかったが、スケルトンとゾンビは破れた服装から、ランカスター王国人のようだった。
「どういうわけか、記録に残っているだけでも30年ほど前からここがアンデッドと遭遇しやすいと記載されている。実際は、もっと昔からあった現象かも知れない」
その頃、ランカスター王国内で内乱があったわけではない。その40年ほど前にあったのが「ウォード家の反乱」だ。
ここはナジュム王国の王都パルヴァーネフと港町ギティを繋ぐ、ナジュム王国内の公路だ。近くにランカスター王国の領地があるわけでは無い。
この不毛な大地になにかあるの?
「倒しても倒してもキリがないからな。俺はネクロマンサーの存在を疑っている」
恨みなどを持って死んだ場合、スケルトンやゾンビになる可能性もあるが、同じ場所に後から後から沸くように、アンデッドが出現すると言うことは無い。
誰かに意図的に操られているのだ。操っているのは、ネクロマンサーぐらいしかいない。
「本当にネクロマンサーが居たとして、相当優秀な魔法使いね」
死人使いは、ランカスター王国では禁忌の存在だ。私は魔法学を専門に勉強しているわけでは無いので、詳細は分からないが、簡単になれるわけではないし、死人使いの勉強をしただけで罪に問われる。
それを誰にも知られず勉強するのは、難しいのでは無いか?
でも、そういったことが隠せる身分の者だったら……?
だとしても、そんな地位が高ければ、ネクロマンサーになる意味もない気もするし。
「錬金術で死者を操る術は、まだ見つかっていない。この件については、ランカスター王国に合同捜査を頼んでいるが、のらりくらりと躱された」
外交はお父様だけれど、こういった事件性を帯びているものって、お父様の他にも担当している人が居そう。
「ランカスター王国の交渉相手はどなたですか?」
「ペンリン男爵だ」
ペンリン男爵は、ランカスター王国で警備隊の長をやっている家だ。警備隊は警察みたいな役割で、世俗的な問題を高貴な身分の者が行うのは恥であるという考えがあるので、警視総監的な立ち位置が男爵家なのだ。
ペンリン男爵って、王妃のご生家のダラム伯爵家に養子に行った人がいなかったっけ?
確か、ダラム伯爵家を継いだのは女性でその婿養子がペンリン男爵家だったような。
ダラム伯爵家って、ちょっと怪しいことをしていそうな家なんだよね。ペンリン男爵家も王宮での王妃の後ろ盾をしているとしたら、充分、きな臭いことしてそう。
「ペンリン男爵を叩いたら、埃ぐらいは出そうなくらい怪しいわ」
私の返答に、シャールーズはこれ以上ないってぐらい、楽しそうな笑みを見せた。口の端がにやっと上がって、チシャ猫みたい。
「そうか、そうか。よく言った。ギティについたら、マジカルツアーに案内しよう」
ひえぇっなんだ、その煌めかしい不思議旅の名前は……!
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