第78話神様の降りた場所


 アリエル・ホールドンの編入試験の結果はその日のうちに本人に伝えられたらしく、納得がいかないともめたらしい。

 外の学校に通うということは、王宮に滞在できないし、当然、シャールーズに会うことも出来なければ、私の姿を見ることも出来ない。

 私を追い落としに来ただろうに、目的が達せられなくて、無いところに煙を立たせようと、色々と吹聴しているようだ。

 留学中は高級宿に長期滞在するのだが、使用人がいないと生活が出来ないと訴えているらしい。アリエル・ホールドンは割と最近まで、平民暮らしだったはずだが、はて?


 シャールーズの使いは、全く相手にしなかったので結局ホールドンは、親に状況を訴えたようだ。


 以上のことは、全部アンナが王宮の女官達の噂話を集めて教えてくれた。


 ホールドン男爵は、今回の留学における公文書偽造の罪で領地を半分返上しているので、娘の我が儘を叶えるほど財力に余力のある状態ではないと思うのだけど。



○●○●



 今日は、シャールーズに連れられて、モスクに来ている。お后様教育の一環で、ナジュム王国の祈りの時間について勉強している。そのことをシャールーズに話したら、「俺が実技を教えてやる」と言って、ここに連れてこられた。


 王宮内にあるモスクだ。王都に建てられているモスクに比べれば小さいが、それでも立派なタイル模様の美しい尖塔を持ったモスクである。

 王宮に勤める人が、勤務中でもお祈りの時間になったら気軽にモスクに来て祈れるようにと、考えられて建てられたらしい。

 王族もここで祈るので、別途王族専用の祈りの部屋が用意されている。

 祈りの部屋と言っても、質素では無く、壁が幾何学模様のモザイクタイルで装飾されている。


「ここで一日に数回祈りを捧げる。あっちにある『始まりの地』に向かって祈るんだ」


 シャールーズは、王都の大モスクがある場所を指した。王都で一番の大きいモスクは、ナジュム王国の国教の始まりの地とされていて、聖地になっている。


「祈る方角まで決まっているのね」


「あそこに神が降り立ったからな」


 神様が降り立ったといわれるドーム状の巨石があって、それを保護するように建物が建ったのがモスクの始まりのようだ。


「ここは、窓から見えるけど、窓からモスクが見えない場合はどうしているの?」


 さすがに王宮に建てたモスクは、神様の降り立った場所に立つ大モスクを遮るような建物は建てられていない。でも、城下では建物がひしめき合っているので、大モスクの方角がわからない家だってありそう。


「建築時に方角を調べて、部屋に印をつけておくんだ」


 シャールーズが壁に貼られているタイルのうちの、矢印の形をしているものを指した。


「でも、ちょっとだけ方角違うみたいね」


「正確な方角をタイルで表すのは難しいみたいだ」


 その場で正確な聖地の位置が分かる物を作ったら、売れるんじゃ無いかしら?

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