第74話ヒロインがやってきた
目が覚めたら、自分の部屋のベッドの上にいた。窓から西日が差し込んでいる。
あれ?帰ってくるなりシャールーズとハマムに行って、休憩所で寝ちゃったんだっけ。
もしかして、シャールーズに運ばれて……とか。
恥ずかしさに全身が熱くなる。もだもだ悩むぐらいなら、直接本人に尋ねようとベッドから起き上がった。 隣の侍女の控え室で待機しているアンナを呼んで着替えを手伝ってもらう。シャールーズは、執務室にいるとアンナが教えてくれた。
お礼と、ハマムの休憩所で話してくれた千里眼について詳しく聞きたい。シャールーズの空き時間の調整をシャールーズの従者とアンナでしてもらおうと頼もうとしていたところ、部屋の扉がノックされた。
「どうぞ」
私の返事にアンナが扉を開けると、シャールーズの従者が立っていた。
「ジュリア様、謁見の間にお越しください。陛下がお呼びです」
シャールーズが謁見の間に呼び出すなんて珍しい。
「それと、これを身につけるように、と」
シャールーズの従者が、アンナに衣服を手渡す。ぱっと見た感じ、ナジュム王国の伝統衣装のようだ。
アンナに手伝ってもらって、服を着替える。思った通りナジュム王国の伝統衣装で、ツタの模様と花の模様の布地で作られた首元まで覆われた長袖のドレスだった。ドレスといっても、ランカスター王国のドレスみたいに、スカート部分がふわっと盛り上がっているのでは無く、自然なラインのスカートだ。
アクセサリーもそれに併せて、金細工に変える。
シャールーズの従者が部屋の外で待っていて、謁見室まで案内してくれた。
謁見室は、一番高いところに玉座があって背後にはナジュム王国の旗が壁から垂れ下がっている。玉座の両脇には、ナジュム王国の宰相と宮廷錬金術師が立っていた。その一段低いところには両脇に大臣たちが並ぶ。私は、宮廷錬金術師のすぐとなりに案内された。玉座に座るシャールーズは、私を一瞥して頷いた。
なんで呼ばれたか分からないけれど、ここに居て良いってことみたい。
すぐに、次の謁見者の到来を告げる声がした。謁見者として入ってきた人物を見て、私は驚いた。
アリエル・ホールドンが入ってきたのだ。
もう、留学してきたのか。
「王妃陛下からの親書を預かっております」
ややぎこちないものの礼儀作法に則った仕草で、シャールーズの従者に手紙を渡す。
シャールーズが親書に目を通して、「あいわかった」と即答した。
「それでは、私もシャールーズ様のお側に居られるのですね」
うっとりした表情でアリエルが駆け寄ろうとするのを、近衛兵が取り押さえる。
シャールーズは、呆れたように言った。
「手紙には、万事良くしてくれと書いてあったから、留学生として扱ってやろうと思ったから、あいわかったと言ったのだ」
「私のどこがご不満なのですか」
アリエルがうちひしがれた表情で、シャールーズを見上げる。学校で、媚びを売るためにした、よく見かけた表情だ。
「勉強に来たのであれば、他のことなど考えず勉学に励め」
アリエルの媚びに見向きもせず断るシャールーズが、私には煌めいて見える。
……あれ?違う、贔屓目でシャールーズの周囲に金の粉が飛んでいるように見えるほど煌めいている、のではなく、本当になんかキラキラしたものがシャールーズの周囲にまとわりついている。
よく見ると、宰相や宮廷魔術師、大臣たちも煌めいている。
なんだ、あの煌めき。みんな突然イケメンエフェクトでも出せるようになってしまったのだろうか。
「私だって、ジュリアと同じ、いえそれ以上に陛下のお気に召すはずです」
ホールドンが言いつのれば、言いつのるほど煌めきはたくさん出てくる。煌めきの出現量は個人差があるみたいで、一番煌めいているのがシャールーズ、次が宰相、ホールドンを取り押さえている近衛兵となっている。
たしかに、みなさんそれぞれに特徴のあるイケメンだとは思うけれど。なんだろ、このイケメンエフェクト。
「そなたが、俺のジュリアを超えるわけが無い」
「目を覚ましてください!強がらなくていいのです。神の力は貴方を苦しめる力ではないのですから」
まったくかみ合っていない会話をする二人だが、アリエル・ホールドンの言葉に、シャールーズが顔色をわずかに変えた。
それを好意的に取ったのか、ホールドンが言葉を続ける。
「貴方を苦しめる神の血も、なにもかも、すべて貴方の支えになりたいのです」
シャールーズから顔の表情が抜け落ちる。まさか、ホールドンの魅了魔法に負けちゃったわけじゃ無いよね……?
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