第66話王妃の思惑


 無事に家に帰り着いた。アミルたちの商隊は、家まで送ってくれたのだ。アミルたちは、このままロンドニウムの商会に向かった。積み荷を整理するのだそうだ。


 お屋敷では、両親とお兄様、ルイ、使用人達が出迎えてくれた。お兄様の結婚式はあさってだ。準備に忙しいだろうに、変わらぬ様子で出迎えてくれるのが嬉しい。


 お兄様の結婚相手は、以前から婚約していたゾーイ・エイマーズ伯爵令嬢だ。伯爵令嬢だけれど騎士団に所属していて、ジョシュア王子の妹姫、アリスの護衛をしている。

 私はお兄様を介してしかエイマーズ様と話を為たことは無いけれど、気さくで爽やかで、素敵なお姉様という雰囲気だ。魔法学校在学中は、女生徒のファンクラブがあったというのも、納得できる。

 とても頼りになるエイマーズ様だが、お兄様の前ではとても乙女らしい反応をしていて可愛らしい姿をお兄様には見せていた。

 私は、とてもお似合いだと思う。



「おかえり、ジュリア。暫く見ないうちに、素敵なレディになったようだね」


 お兄様と一緒にパーラーに向かう。相変わらず私に甘い。


「そんな、数ヶ月経っただけで、すぐには変わりません」


「本当に?大きな変化だと思うが」


 お兄様が意味ありげに私を見てくる。まったく思いつかなくて、私が小首をかしげるとお兄様は、自分の手首を、もう片方の手で軽く叩く。


 手首……?


 あ!シャールーズにもらった腕輪


「うまくいっているようだね。ナジュム王国で」


 お兄様は、私が身につけている腕輪の意味も気がついているようだ。


 お兄様に、恋愛がうまくいっていると知られるのって、とんでもなく恥ずかしい。顔から火が噴きそう。


「あの、えっと……その……あー……はい」


 なんと返事をして良いのか分からなくて、すごく迷ったあげく、小さな声で肯定するしか無かった。だって、違いますと言えないし、力強く肯定するのは、恥ずかしすぎる。


「それは、なによりだ。ジョシュア殿下との仲はひやひやしたからね」


 ジョシュア王子との仲はそんなに悪くない。でも、お兄様は違った見方をしていたのだろうか。


 居間に入って、お兄様と向かい合って座る。使用人達が私たちの分の紅茶を入れてくれた。


「殿下と仲が良かっただろう。もし、ジュリアが殿下と結婚したいとなったら、困ったことになっただろうね」


 私と殿下の仲が悪いと思われていたのでは無いとすると、問題はひとつだ。


「王妃陛下との関係ですね」


「……やんごとなきお方は、何を考えているかわからないからな。お前を婚約者としたあと、ジョシュア殿下は、運命の恋人と結婚するので婚約を破棄するだろうとおっしゃっていた」


「いつのことです?」


「ジュリアが婚約者候補になったときだ。やんごとなきお方だけが、ジュリアを候補では無くジュリアだけを婚約者とするように言っていた」


 あの時点で、そんなことを言っていたのか。子供だからと、私はお父様、お母様、お兄様にだいぶ守られてきたようだ。


「みすみす婚約破棄されるのが分かっていて、ジョシュア殿下の婚約者にするわけにはいかない、というのがデクルー家の総意だった」


 だから、交渉の末、侯爵家の令嬢それぞれが婚約者候補になるということになったのか。実際、マーゴもシベルも良い子だから、王太子妃になってもうまくやれると思う。二人の気持ちを考えなければ、だけど。


「機会が訪れたのは、ナジュム王国の親書だ。是が非でも、ジュリアを王妃としたいという熱烈なラブレターのような親書がデクルー家と、国王陛下宛に届いた」


 私は王妃の後押しという本決まりにも近い状態で、ひっくり返すことが出来たのは、ナジュム王国の親書があったからだ。ナジュム王国と和平を望む国王陛下の下命で、私はナジュム王国の王妃として内定した。


「突然ナジュム王国の王妃にとしたから、うまくいっているか気がかりだったんだ」


 王妃の予言だか、予測だが、千里眼だがしらないが見事にはずれたわけだ。

 私は、シャールーズとうまくいっているし、このまま結婚するだろう。


 千里眼がはずれたことで、何かが起きるってことはないよね……?

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