第65話シャールーズからの贈り物


 明日、一時帰国するという日になって、シャールーズの私室に呼び出された。部屋は私の隣だが、今まで一度も入ったことは無い。

 同じ年頃のしかも好きな男の子の部屋に入るのはどきどきする。


「まずはこれを、ジュリアに」


 シャールーズが渡してくれたのは、封書だ。封はされていないので、中を開けるとデザイン画がでてきた。これって、成人の時に身につける封蝋用の指輪の台座部分のデザイン画?


「俺の妻になるのだから、どうせならナジュム王国の意匠が入っていた方がいいだろう?」


 元々、お母様から預かってきたデザインが、ナジュム王国よりのデザインに変わっていた。植物のデザインが繊細で優美なモチーフに変わっている。


「かわいいっありがとう、シャールーズ」


 私の返事に、シャールーズは満足そうに笑って、今度は私の左手を掴んだ。


「次は、これ。虫除けだ」


 左手の手首に金属の板で出来た腕輪を、シャールーズが私にはめた。腕輪には、宝石が埋め込まれていて、周囲を植物模様が縁取っている。


「見る奴がみれば、男からの贈り物だとわかる」


 本当かなぁ?侯爵家の娘だから豪華な宝飾品はつけてて当たり前だと他人から思われてそうだけど。


「ここの縁の部分、文字が書いてあるだろう」


「あ、ほんとだ……えーと『SからJへ最高のパートナー』な……なに書いてるの!」


 は、恥ずかしい!これランカスター王国の言葉で書かれているから、帰国したときみんなが読むことが出来る。

 あ、でも、「愛している」とか書いていないから、まだ、平気かも。最高のパートナーってやっぱり、嬉しい。


「国に帰っているときは、絶対に外さないように」





 アミル達の商隊に混じって帰国する。さっそくアミルに腕輪の文字についてからかわれた。こうなると分かっていたんだけど……!


「もう、軽食配送の効率の良い方法について、話さないよ!」


 いつまでたっても、にやにやと笑い続けるアミルに、私は腹立ち紛れに言った。


「あー……悪い。いやぁ、あの王様がそこまでやるとは思わなくて」


 アミルは、笑ってでてきた生理的な涙を拭き取って、深く呼吸をした。


「今って配送するときに、住所まで書いて運んでいるから、文字の読み書きできる人しか雇えなくて、人手不足なのよね?」


 ランカスター王国の識字率は50%ぐらいと結構低い。平民で文字が読み書きできない人はそれなりの人数がいるので、住所を書けたり読めたりする人は実入りの良い職業に就くので、アミル達はなかなか人員を確保できないでいた。

 人が確保できないと言うことは、商売の規模の拡大が出来ないので、売り上げが打ち止めになってしまう。


「打開策として、住所を書くのを止めるべきだと思うわ」


 文字を書いているから、働く人が限られるのなら止めてしまった方が良い。私は軽食の配送している地域を八等分し、それぞれに数字と記号で識別子を付ける。さらにその分割した地域を数字と記号で識別子をつける、ということを説明した。


「数字と記号なら、文字が読めなくてもその場所に運ぶことが出来る。働き手が増えるはずよ」


「なるほど。数字と簡単な記号なら覚えてもらいやすいな」


「それに、運ぶときに真鍮でできたケースの上に住所を書いていたでしょ?文字を長々と書くより、『1△』のようにすぐに書けた方が、仕分けの時間も短くて済むわ」


「いいアイディアだ、さっそく採用しよう」


 配送業のシステム化をして、効率をあげれば、今以上に儲けがでるはず。その儲けの何割かは、私の懐に入ってくるので、期待しよう。


「儲けたお金で学校でも建てて、名誉を買えばもっと市場規模の拡大ができると思うの」


「ランカスター王国は、名誉を重んじるんだっけ?」


「そう、寄付するのも名誉を得るためだもの」


 ナジュム王国でも、アーラシュ帝国でもなじみの無いことなのだけれど、貴族や、裕福な平民は寄付したことを宣伝し、名誉を得る。お金では買えない栄誉と言われているが、お金で買ってるよね……。


「無事に砂漠を抜けたね。あと少しだ」


 駱駝で隊商を組んで、ランカスター王国を目指している。6日の日程で、砂漠を無事に越えることが出来た。あと少しで緑豊かなランカスター王国の領域になる。


 みんな、元気かな……。

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