第58話御前会議


 編入学試験が終わってから十日ほど経って、お父様から手紙が届いた。留学する私を気遣っての手紙かと思っていたら、全然違った。

 ナジュム王国の王宮にお父様は呼ばれていて、今回の留学に関する手紙について喚問するらしい。


 この間、王妃とホールドン男爵の連盟でサインが書かれた手紙についてシャールーズから聞かされたときに、慌ててお父様に手紙を書いて知らせたのだ。

 お父様は、外務大臣だ。普通、こういう国の代表として外国に手紙を書くときは、外務大臣であるお父様が知らなければならない。シャールーズがわざわざ知らせてきたということは、お父様が知らない可能性がある。

 ホールドン男爵が送ってきた手紙は、お父様が何も知らないでは済まされない内容だ。なにしろナジュム王国のランカスター王国への窓口はお父様なのだ。


 ナジュム王国の王宮で喚問ということは、手紙に書かれていた私の成績表とアリエル・ホールドンの留学についてだろう。これは、誤解を解きつつ、こんな妙な手紙を送った責任を追及することを確約する必要がある。


 お父様の手紙には、喚問時に私が呼び出されたとしても正直に回答すればいいということだった。


 本当に、正直に回答して大丈夫なのかしら?変に嘘をつくと絶対に、シャールーズに見抜かれそうだし。

うまいこと乗り切れると良いのだけれど。


○●○●


 喚問はシャールーズの御前会議で行われたようだ。私はすべて終わってから聞かされた。お父様は、ランカスター王国としての回答を述べたようだ。

 御前会議では、私の編入試験の成績と最初に送られてきた成績表と差異が無いこと、魔法学科で授業を受けていないことなどが確認された。

 ホールドン男爵が送ってきた手紙については、偽造として扱われることになり、ランカスター王国で責任追及することになった。


 お父様は責任追及については、もちかえりにしたようだけれど、実際は、根回し済みでホールドン男爵は領地が半分没収済みだそうだ。王妃は、留学の後押しをするためのサインをしただけだ、と言っていた。公文書の偽造について、証拠が出てこなかったが、騒動になったので、一ヶ月の謹慎処分になったらしい。


 やっぱり、王妃を追い詰めるのは難しい。でも、ホールドン男爵の領地を没収できたのは良かったかも知れない。傍若無人なアリエル・ホールドンも実家の経済の後押しが無ければ多少は、落ち着くかも知れない。

「結局、アリエル・ホールドンはこの国に来るのですね」


 公文書を偽装したのはホールドン男爵で、娘であるアリエルには罪は及ばない。学びたいのであれば、止めることはできない、ということらしい。


「来たところで、好き勝手にはできない」


 いつものようにシャールーズが私の横にぴったりとソファに座る。御前会議の内容を私に要約してくれているのだ。

 口説いているように見せかけて、こうして政治的な話をしてくるのは巧みだ。誰かに遠目に見られたとしても、シャールーズが私を口説いているようにしか見えないだろう。


「だが、クリスタベル王妃については注視しておこう」


 シャールーズの目が肉食獣が獲物を狙うかのように煌めいた。


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