異国での生活
第55話美しき都
王都パルヴァーネフには初めて来た。
ギティもとても賑わってたけれど、王都はそれ以上に華やかさと賑わいがある。中心には幾つもの尖塔の立つ王宮がある。黄金を使った装飾がされているのか、ドーム状の屋根が太陽に反射して、煌めいている。
中央の大通りにはバザールがあり、食べ物や、衣類、絨毯、雑貨、日用品、なんでも売っている。香辛料も多く取り扱っている店が多いみたいで、スパイスの良い香りがした。
到着したら王宮に向かうように指示があったので、さっそく向かう。
なんとなく、王様はシャールーズだ、と想っていたけれど、本当は違ったらどうしよう。
あの人は、育ちが良さそうだったから貴族だとは思うけれど。本当に、貴族で、王様は別の人だったりしたら。
私は、笑えるのだろうか。シャールーズではない人の隣に並んで。
「久しぶりだな」
王宮の門の前で偉そうに仁王立ちしている人がいた。白地で水色の幾何学的な模様の入ったカフィーヤを頭から被っているので、顔がよく見えないが、聞き間違えの無いよく知った声だ。
「久しぶり、シャールーズ」
シャールーズはいつも不思議だ。私が来る時を知っているみたいだ。今日もこうして、待っている。
「よく来たな。部屋に案内しよう」
「部屋?」
「聞いていないのか?学校は王宮内にある。学生は専用の棟で暮らすが、ジュリアは特別」
「特別?」
「そう。こっちだ」
門番も、場内の衛兵も、女官達もみんなシャールーズを見ると立ち止まって一礼する。夏に私と会っていたときよりも多い、シャールーズが身につけている装飾品の数。着ている服は、服の裾や袖口が植物の模様で刺繍されている。細部まで凝った造りだ。たぶん、刺繍糸は、金糸だ。
一番上の階の奥まった部屋に案内される。とても広い。入ってすぐに目に入ったのは大きなバルコニーだ。美しい中庭に面している。中庭には噴水を中心に水路が張り巡らされた庭園になっていた。
きめ細やかな模様の入ったソファとクッションが中央に置かれている。調度品もどれもがナジュム王国でしか見ない物ばかりだ。
奥はベッドルームになっていて、天蓋付きの大きなベッドだ。
「バスルームはベッドルームの隣にある。そっちの部屋が錬金術専用の工房になっている。そして」
シャールーズは、部屋に入った私を、再び廊下に連れ出して隣の部屋の扉の前に立たせる。
「ここが、俺の部屋」
「隣?!」
「俺の妃なのだから当然だろう」
当たり前のように言われて、私は言葉に詰まる。
「……不満か?」
「不満じゃ無い!そうじゃなくて、王様に、なったんだね」
「ああ。ぼやぼやしていられないと思ったからな」
シャールーズはそう言って、再び私の部屋へとエスコートする。侍女の控え室や、使用人達の部屋の説明などここで生活するのに必要なことをシャールーズは説明をしてくれた。
「学校は、あそこだ」
中庭の向かい側にある小さな建物を指した。学校と行っても少人数制で、小さなグループにわかれて専門的な知識を学ぶところらしい。学校というか、大学のゼミみたいな雰囲気だろうか。
「一般的には王宮の外にある学校に通うが、あそこは基礎だけだ。そこで成績の上位者だけが、王宮の一角にある、あの建物で学ぶ。卒業生は、ほぼ全員、宮廷錬金術師になる」
「必ずしも全員では無いのね」
「自分で研究工房を構える者も居る。そういうのは変わり者で、宮廷勤めには向かない。ほかには、王立の研究所に勤める者もいる」
「ファルジャードさんも?」
「そうだ。この学校の出身だ」
ファルジャードさんは、そんなに変わり者って感じはしなかったけれど、宮廷勤めは窮屈だと感じるタイプだったのだろうか。
「旅装のままで疲れただろう?また、後で来る」
シャールーズは私の髪にキスをして部屋から出て行った。
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