第33話シャールーズには会えないの?


 夏休みになって、お兄様が帰ってきた。最上級生の学年首席だけが身につけることが許される朱色のマントが、お兄様より先に我が家に到着していた。秋からは、お兄様はこのマントを羽織って登校する。


 素敵……。お兄様に、朱色のマントがとても似合っている。


 家族中で、制服に朱色のマント姿のお兄様を称えている。お父様もお母様も、在籍中は首席だったことは無いらしく、お兄様が最終学年で首席であることをとても喜んでいた。ルイは、お兄様の格好いい姿がとても気に入ったようだ。単なる朱色のマントではなくて、金色の縁取りが美しく、均整の取れた体格のお兄様が着用されているので、物語に出てくる騎士のようだ。


 みんなに褒められて、お兄様はものすごく恥ずかしそうに頬を染めていた。まるで美術品のように整ったお兄様の顔が、赤く染まるのはとても可愛らしかった。




 また、ギティに遊びに来た。夏休みになったからだ。お兄様とルイは、最近二人でよく遊びに行く。ギティに住む友人ができたらしい。釣りに行ったり、らくだに乗って砂漠探検したりと、ちょっとした冒険を楽しんでいるようだ。


 私は、去年と同じようにファルジャードさんの家に遊びに行った。新国王即位のお祝いムードが続いていて、ギティはいつも以上に賑やかだ。ファルジャードさんは家に居たが、なんだか忙しそうにしていた。


「ああ、来てくれて嬉しいんだけど。引っ越すから片付けているんだ」


「え?ファルジャードさん引っ越すの?」


「王都パルヴァーネフだよ。王立研究所の研究者として招かれたんだ」


「おめでとうございます……で、良いんですよね?」


 もともと、ファルジャードさんが何をしていた人だか分からないから、祝福したけれど、まさか、左遷ってことではないよね?


「ありがとう。行きたくないんだけど、陛下の招聘を断るわけにはいかないからね」


「陛下……新国王陛下ですか?」


「そうだよ。……そうだ、ジュリアは、留学することにしたの?」


 ファルジャードさんは、たくさんある小瓶たちを、紙に包んで箱にしまった。その小瓶達も錬金術で使う道具なのだろう。


「留学しようと思います。半年ほどランカスターの学校に通った後、こちらの学校に通うことになるかと」


「そっか。パルヴァーネフは良いところだよ」


「住んだことあるんですか?」


「僕の出身はパルヴァーネフだからね。とても美しい都だ」


「楽しみにしてます」


 私は、ファルジャードさんの引っ越しを手伝った。パルヴァーネフでの住所も聞くことが出来た。留学したら、遊びに行ってみよう。


「シャールーズは、もう、遊びに来ないんですよね?」


 ファルジャードさんの家から帰る直前に、私はファルジャードさんに尋ねた。ファルジャードさんは、ほんの少しだけ驚いたように目を開いて、優しく笑った。


「理由は、気がついてそうだね。当たっていると思うよ」


 やっぱり、彼は……。



 ファルジャードさんの家からの帰り道、私はあることに気がついた。祝賀ムードで人が多いギティだが、どうも、不埒な人たちも増えたようだ。私が歩いているのは、平民達が住むエリアでも比較的、裕福なもの達が住む場所だ。その割には、身なりの悪い者たちが闊歩している。


 ただ歩くだけなら良いのだが、人を見つけては何かを売りつけているようだ。小さな紙袋に入った粉のような物は、なんだか分からないが、もし、あの中身が小麦粉だったとしたら100倍以上の値段で売りつけていることになる。


 少量でも高価なもの、つまり禁止されている薬物と推測される。


 錬金術は、下手をすれば簡単に中毒性のある薬物を作り出すことが出来るため、ナジュム王国では錬金術師の教育を徹底しているし、中毒性のある薬物に対する法律はどこの国よりも厳しく定められている。


 私の目の端に写るぐらいだから、他の人だって気がついているだろう。それでも取り締まらないのは、手が回っていないのか、取り締まる人々も買収されたか……。


 こういうのって、取引しているところを押さえるのは簡単なんだけれど、押さえたところで法の番人たちが、買収されていたら意味が無いのよね。


 なにか、旨い手立てはないものかしら?

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