第28話雪合戦


 厚手のフード付きのコートに、手袋をして、アミルと中庭に出た。結構積もったのか、雪の上に踏み入れると雪が重さに耐えきれずにずぼっと足が沈む。アミルは楽しそうに新雪を踏み荒らしている。


 アミルは私に向かって小さな雪玉を投げた。私は雪玉を避けきれず、体に当たる。仕返し、とばかりに雪玉をつくって投げ返すと、アミルは華麗に避けて私と距離を取った。


 しばらく二人で雪玉の投げ合いをしていたけれど、私は息が上がってきた。それに比べて、アミルは余裕そうだ。全然、勝てる気がしない。


「可愛い妹をよくも弄んでくれたな」


 寒い日は中々起きてこないお兄様が、私たちと同じように厚手のコートに手袋という完全武装状態で中庭に現れた。隣には、同じような格好をしたルイもいる。


「姉上!ああ……こんなに雪まみれになって」


 ルイが悲しげな声で、困ったような表情をして私のコートに着いた雪を払い落とした。


「ほう、我が妹を雪まみれに?」


 お兄様の周囲に、適度な大きさの雪玉が幾つも宙に浮かぶ。


「え?イーサン……こんなの子供のじゃれあいじゃないか」


「じゃれあい?可愛い妹と、じゃれあいの許可などだしていない」


 お兄様が、腕を伸ばしアミルの方へ振ると、宙に浮いた雪玉が一直線にアミルに向かって飛んでいく。


 お兄様、高度な魔法を予備動作だけでできて、素敵。

 雪玉は、アミルに全弾ヒットし、アミルは私と負けず劣らず雪まみれになった。野球の練習に使うトスバッティングマシンみたいな魔法だと思ったのは、内緒だ。


 結局、お昼になるまで私たち四人は、雪合戦をしていた。



○●○●


 もうすぐ、夏が来る。私は十三歳になった。去年シャールーズから、今年はあまりギティに来れないかもしれない、と言われていた。


 それでも、私は去年までと同じように、家族でギティに滞在する予定だ。ファルジャードさんは、居るだろうか。居たら良いなぁ。ラベンダー水を作るのは、結構上手になってきた。できれば、成果をみてほしい。

 今年も、ギティへ出発するのは、お兄様が学園の寮から帰ってきた次の日。お兄様の夏休み期間中は、ほぼギティに滞在することになる。





 お兄様が、ようやく夏休みになって家に帰ってきた。一年生の最後の日で、成績は学年トップということだった。


 さすが、お兄様。


 お父様が、出発前に「今年は、砂嵐が多い年のようだから、注意するように」と言っていた。砂漠で発生した砂嵐が、オアシス地帯までやってくることがある。オアシス地帯までやってくる大きな砂嵐が、たびたび発生している、ということだった。


 私たちが移動するときには、何も起きないで居て欲しい!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る