黒い鳥

カラスの血を飲んだ。


じわじわ。


しゅわしゅわ?


たぶん、そんな感じ。


あんなに色白だった僕の体が黒く染まると、体が妙に軽くなった。ニュルニュルと生えてきた漆黒の羽根を動かすと、意図も簡単に世界を見下ろせる高さまで飛ぶことが出来た。



見慣れた家を見つけ、その赤い屋根の上に静かに止まる。


懐かしい………。


幼馴染みのいる部屋の窓から、優しいピアノの音色。



時間を忘れ。


自分も忘れ。



次に目を開けると、僕は冷たいアスファルトの上で倒れていた。


夢にしては、リアル。空を飛んだ興奮がまだ残っている。瀕死の状態なのに、目だけが普通に機能していた。


やっと思い出したよ。ついさっき、僕は横断歩道の真ん中で激しい何かにぶつかり、宙を舞い、容赦なく地面に叩きつけられた。


僕の狭く、赤い視界に一羽のカラスがいた。


動かなくなった僕の前に来て、血溜まりに口をチョンチョンつけている。


カラスの輪郭がぐにゃぐにゃ~と歪み、それはすぐに人間の形になった。


カラスは僕の血を飲み、人間である『僕』になった。


知らない『僕』に見下ろされても恐怖は感じなかった。


ただ………。


この奇妙な現象を激しく誰かと共有したかった。


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