第96話 虜
深夜の町に男二人だけ。終電を逃した二人は、あてもなくシャッター商店街を歩いていた。次第に酔いが覚めていく。
「静かな夜ですね~」
「うん……。何か暇潰し出来る、面白いことないかなぁ。始発まで、まだまだ時間あるし」
「この先に変わった店ならありますよ。今日って、火曜ですよね。小林さんは、ツイてますね~。今から行きましょう!」
腐れ縁の佐藤さんに連れていかれた一軒のお店。
あれ?
こんな場所に店なんてあったかな。
「普段は、閉まっているんです。火曜のこの時間だけ、店が開くんです。しかも30分だけ限定で」
なるほど。確かにツイてる。外観は、お洒落な喫茶店みたいだ。
躊躇なく、僕達はお店の中に入った。
……………………………。
……………………。
………………。
20分後。トイレに行くと嘘をつき、小林さんを一人残して店から出た。
硝子戸から店内の様子を窺う。
暗い店内。明かりは、テーブル上の蝋燭一本だけ。二人用の席に座る小林さんの周りを親指サイズの『妖精』が3匹飛び回っている。
万華鏡のような美しさ。
その妖しい動きに完全に見惚れている小林さん。あぁなってしまったら、胸を刺しでもしない限り、こっち側に戻ってこれない。
あれは、人間を虜にする幻術。
それを防ぐために僕は、普段からサングラスをかけているわけだけど。
30分が過ぎ、閉店。
蝋燭の火が消え、最後に3匹の妖精に襲われる小林さんと目があった。
僕の悪口をぎゃーぎゃー言っていたことだけは分かった。
しばらくして、猫耳を生やした店主のオヤジが出てきた。
「……………今度もお願いします。新鮮な生き餌を毎回提供していただき、感謝します」
現金が入った封筒を受けとる。
「はいはい。まいどー」
はぁ…………。
ほんとに静かで、良い夜。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます