蛍火①

夢を見た。


あの子と二人で遊ぶ夢。


朝起きて夢から覚めると、なんだか……こう…胸がジンとした。僕は、またあの夏祭りの夜を思い出していた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「そろそろ帰るよ。母さんが心配するからさ」


「もう帰るのか? 花火だってこれからだぞ」


屋台で順番待ちをしているタカシにサヨナラし、僕は家に帰るふりをしてタカシにばれないように神社に向かった。神社は山の奥にあって、なかなか人も来ない。


「……………」


誰もいなかった。ちょうど良い。僕は、一人になりたかったから。


夜空の星を数えるのに飽きた僕は、持っていたりんご飴の棒をゴミ箱に捨てた。


「そろそろ、帰ろう」


やけに大きな独り言。


今夜は、この地区の夏祭り。女性の甲高い笑い声を背中で聞きながら、僕は神社を後にした。


その時ーーーーー




「こう……くん?」




僕を呼ぶ声がした。小さい声だったけど、僕はその声に聞き覚えがあった。振り返るが、誰もいない。ただ、蛍が一匹飛んでいるだけ。


「私よ、私。タナシ ミホ。こんな姿でごめんなさい」


「えっ、未歩ちゃん? ど、どうして蛍の姿なんか……」


未歩ちゃんは、僕の幼なじみ。小さい頃からいつも一緒に遊んでいた。でも去年の冬、お父さんの転勤で東京に引っ越してしまった。


「一緒に夏祭りに行こうって約束したでしょ? でも私は幸くんとは会えないから、この蛍の姿を借りたの。驚いた? すごいでしょ~」


可愛い蛍は、僕の周りをグルッと一周すると肩にピタッと止まった。


「とても不思議だけど信じるよ。未歩ちゃんは、嘘言わないし。じゃあ……花火を見に行こう。まだ始まったばかりだから」


「うん」


これが、神様のイタズラでもかまわない。僕はただ、未歩ちゃんともっともっと長く一緒にいたかった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る