第45話 オデ夫と俺③完
もうすぐ、俺の嫌いな春がやって来る。
春には、嫌な思い出しかない。
逃避と別れ。
東京に来て、あっという間に三年が過ぎた。都会の生活にはすぐに慣れたが、この三年で得たモノは何もなく。
味のしない日々の繰り返しだった。
高校を中退し、特に資格等もない俺を雇ってくれる会社は皆無に等しく。やっと採用された会社も1ヶ月を待たないで辞めてしまった。
気づいたら堕ちるとこまで堕ち、今の仕事に落ち着いた。仕事と言っても、人に話せる内容ではない。
俺は、頼まれた荷物をトラックに乗せ、指定された場所に届ける。ただ、それだけ。大抵は、違法な白い粉や人を殺す道具を運んでいる。つまり、俺は犯罪者。
捕まるリスクより、簡単に手に入る金を優先した。まぁ……でも。そんな甘い日々が続くわけがない。
今夜、俺が運ぶ荷物は、【生きた人間】だった。人身売買なんて都市伝説だと思っていたのに。本当に現代の日本で、こんなことあるんだな。
「あの………。この人達を運ぶんですか?」
「お前、何か勘違いしてるな。これは、人間じゃなく物だ。 いいな? ほら、行け」
「はい。分かりました」
俺は、静かに車を発進させた。
走っていると、急に溢れてきた涙で視界がぼやけた。俺は、考えるよりも先に車を急停車させ、荷台から人間を降ろして逃がした。
俺に異国の言葉で感謝を述べる少年少女たち。
別に今さら善人ぶる気はない。
「帰ろう……」
地元に。オデ夫に会いに。
でもーーーー
それは、叶わない夢。バカな俺でも分かる。俺は今、底無しの沼の中にいる。助からない命。
また嘘をついてしまった。約束を破って、オデ夫を傷つけた。
ごめんな。
夜が明ける前に俺は組織の連中に捕まり、拷問され、おまけに最後は五回刺されたーーーーー
俺の周りが、真っ赤っ赤。
もうよそう。こんな話。今、すごく眠いんだよ。だから昔話は、これで終わりだ。
そろそろ寝かせてくれ。
ぁ………
ぁ………………
……………………
…………………………………………
【目の前に鬼がいる】
地獄。俺は、全裸で立っていた。
永遠の苦しみが、俺を待っている。恐くて恐くて、退くことも進むことも出来ない。
急に周りが暗くなった。鬼が、明らかに動揺している。
俺は、振り返る。俺の後ろに巨人が立っていた。
「オデ夫………か?」
「うん! オデだよ」
「なんで、お前が地獄にいるんだよ」
「約束しだら? また会うって」
ほんと……。相変わらず、無茶苦茶な奴だ。地獄にまで会いに来るなんて。
「ばあぢゃんが、向ごうで呼んでる。だがら、行ごう。一緒に」
オデ夫が、指差した先に見える光。あの光の先は、きっと天国に繋がっている。
「目の前の鬼、倒せるか?」
「うん!! オデに任せろ」
鬼よりも大きなオデ夫。これ以上にないぐらい頼もしい。
鬼に突進していくオデ夫の後を、俺は鼻唄を歌いながら、ゆっくり、ゆっくり、ついていく。
完
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます