第42話 赤い土産

娘に『パパくちゃい』と言われた。


『いや、いや、いや。パパ臭くないよ。お風呂だって、毎日入ってるし』


『う~ん。でもママがね、臭い臭いって言ってたよ』


仕方ないから、お風呂でゴシゴシ。一時間。


『どう? もう臭くないよ』


やってきた妻が一言。


『あなた、まだ臭いわ。なんだか、人間臭い』


『えっ!? そうかなぁ』


妻には、内緒にしていたが………ひょっとしてバレたか?


僕は、慌てて地下室に降り、捕まえた人間の様子を見に行った。証拠隠滅するために。



「いや、来ないでっ!! お願い 」


『僕は、怒っているんだよ。君のせいで、妻と娘に臭いって言われたし。はぁ………』


「あなたの言葉、私には分からないの!! 何度も言ってるでしょ」


『この言葉が、分からない? やっぱり、お前たち人間は欠陥品だな』


僕は、この女を丸飲みにすることを決めた。



その時ーーーー



『あ~~~~臭い。臭い。臭い。人間臭いわ。やっぱり、アナタ。私達に黙って、人間を飼っていたのね!』


『…ぅ……うん。ごめん。でも地球産なんだよ、コイツ。貴重でしょ』


娘は、扉の前に立って、僕達夫婦の会話を静かに聞いていた。でも飽きっぽい娘は、ゆっくりと人間の女に近付きーー



「アナタ。お願い………。私を助けて。ね? パパとママにそう言ってちょうだい」


『うん。分かった。あなたを助ける。でもね、そのかわりに』


娘は、赤い髪をかき上げ、自分の小さな口を女の口にぴったりと合わせて塞いだ。キスをしているような格好。


しばらくして口を離した娘は、満足そうに薄く笑って、人間の女を約束通り解放した。


「ゲホッ、うぅっ。はぁ…はぁ…。あっ、あなた、今……私に、ゲホッ、なにしたの」


『卵を口移ししたんだよ。地球へのお土産だよ~』


「だから、何言ってるか分からない………。ゲホッ、ゲホッ。うっ、でも、もういい」


僕は、人間の女を地球に返品した。

娘の子供たちが孵るまで。この遠い星から優しく見守ることにした。

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