闇にも愛
会社からの帰り。
いつもの道。いつもの時間。だけど、今日は一つだけ違っていた。
前から歩いてくる女にすれ違い様、声をかけられた。こんなこと初めて。
「私って、綺麗?」
「……………綺麗だよ」
「こんな狂った顔の私が綺麗?」
「うん」
「嘘ッッ!! 嘘つきは、嫌いよ」
僕の首を絞めようとする氷のような女の手。
「……嘘じゃない。声で分かった。君の心は、綺麗だってこと。僕が出会った人間の中で一番」
僕は、昔から目が見えない。姿は見えなくても相手の心は感じることが出来た。
「私……人間じゃないよ?」
「ふ~ん。まぁ、でも。それ聞いて安心したよ。僕は、人間が嫌いだから」
ゆっくりと僕の首から離れる冷たい手。
僕の前で、女は静かに泣いていた。
人間になりきれなかった、悲しい女。
完
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