第94話 【毒鶏】の秘宝を手に入れました

 きらきらきら。世界が輝いていく。

 瘴気が光の粒へと変わっていった。

 そして、【毒鶏コカトリス】自身も輝き始める。紫色の羽毛は変化して――


「す、すごいノ! 瘴気がなくなったノ……! それにニワトリがすっごくキラキラしているノ……!」

「さすがレニ様です。強い効能の回復薬をお持ちだと知ってはいましたが、それをこのように使うことができるなんて……。機転がすばらしいのはもちろんのこと、それを可能にしてしまう実行力」

「そんな回復薬があるのがすごいノ! しかもニワトリに振りかけることができるぐらい大量にあるノ! レニちゃはすごすぎるノ……!」


 ――真っ白な羽毛。血色のいいトサカ。くりっとしたかわいい目。

 【回復薬(神)】を振りかけられたことによって、ステータスの【瘴気】がなくなってしまったであろう【毒鶏】は、体を砂に埋められたまま、『コケ?』と首を傾げた。

 うん。これはもう、見た目、大きなニワトリ。

 瘴気がなくなった瞬間、すぐに来てくれたサミューちゃんとカリガノちゃんがその姿を見て、驚いたように目を見開く。

 私はふふっと笑った。


「あとは、ひほうだね」


 捕まえて、瘴気は消した。

 【回復薬(神)】の効き目がどれだけかはわからないし、いずれ【毒鶏】はまた瘴気を出すかもしれないが、今はこれで秘宝を手にれられるはずだ。


「【水蛇ナーガ】のときは、体内にありました。同じと考えるならば、【毒鶏】も体内に秘宝があるのでしょう」

「はなしたら、だしてくれるかな?」


 【水蛇】はムートちゃんが指示したら、自分から吐き出してくれた。

 ので、それを期待し、話しかけてみる。


「こかとりす、ひほう、だして?」

『……コケッ!』


 私の言葉に、【毒鶏】はフンッ! という感じで顔を背けた。首まで砂に埋まっているのに強気である。

 瞬間、隣からビリビリビリッと殺気が……。


「射殺しましょう」


 サミューちゃんは端的にそう言うと、弓を構え、矢をつがえた。

 もちろん、碧色の目がキラッと光っている。魔力込みの矢だ。


「レニ様のお願いを断るなど、万死に値します。世界の矢という矢を打ち込みましょう」

「さみゅーちゃん、まって」


 いけない。【毒鶏】がハリセンボンになってしまう。

 慌てて、膝に抱き着けば、サミューちゃんは白目になり、力を失った。よし。


「レニちゃ、ニワトリからなにか欲しいノ?」

「れに、あいてむがほしい。こかとりすのたいないにあるとおもう」

「ニワトリが体に隠し持っているアイテムがあって、それを取り出せばいいノ? レニちゃ、ニワトリを生かしたままでそれが欲しいノ?」

「うん」

「それならカリガノに任せてなノ! カリガノ、村ではよくニワトリを解体したノ! 体は大きくても構造は同じだと思うノ。ニワトリは消化を助けるために胃のあたりに岩を呑み込んでためるところがあるノ。そこにあると思うノ!」


 カリガノちゃんの言葉に「なるほど」と頷く。

 たぶん、それは砂肝とか砂ずりって呼ばれている部位のことだよね。たしかにそこにありそうだ。


「レニちゃ、砂を部分的に取り除くことできたり……するノ?」

「できる」


 カリガノちゃんの言葉に自信満々に頷く。すると、カリガノちゃんは「ふぇぇ」と声を上げた。


「す、すごいノ……。言ってみただけだったのに、本当にできるなんてすごいノ! じゃあ、ちょうど首の下、胸のあたりの砂をなくしてほしいノ!」

「わかった」


 カリガノちゃんの指示通りに、そこを【つるはし(特上)】で掘る。あまり大きく掘ると【毒鶏】が逃げ出せてしまうため慎重に。

 そして、うまく空間ができると、カリガノちゃんはそこへと降りた。そして――


「砂肝はここなノ!」


 ――ローリングソバット……!

 くるんと横に回転しながら、思いっきり足底で【毒鶏】の首と胸の境目あたりを蹴り飛ばした。

 バコォッ! という大きな音。衝撃は強かったようで、蹴られた場所は大きくへこんでいる。

 ……すごい。強い。身体能力が高い……。

 ピンクの髪にまんまるの同色の目。ふわふわの長い耳を持つカリガノちゃんから、こんなすごい技が出るとは……。

 蹴られた【毒鶏】は、うぐっと息を止めている。けれど、耐えきれなかったようで……。


『オェエエエエッ』


 空に向かって、盛大に吐く。

 ……うん。ここはモザイク処理が必要な感じ。


「レニ様っ」


 なにかの気配を察したのか、白目から戻ったサミューちゃんが私を抱き上げ、その場から飛ぶ。

 すると、ちょうどそこにボタボタボタッと【毒鶏】の吐いたものが落下した。


「ウサギ獣人! なにをしているのです!? レニ様が今、非常に危険でしたが!?」

「ご、ごめんなさいなノ~! まさかそっちに向かって吐くなんて思わなかったノ! レニちゃ大丈夫なノ!?」

「だいじょうぶ」


 穴からピョンと出てきたカリガノちゃんの焦り顔に、頷いて返す。

 サミューちゃんは私を地面に下ろすと、【毒鶏】が吐いたものへと近づいていった。そして、二本の矢を器用に使い、なにかを掴み上げた。


「レニ様、ありました! これが秘宝だと思われます! レニ様の回復薬の効果のためか瘴気はありませんが……」


 サミューちゃんが言葉を濁す。すると、カリガノちゃんが「はいはーい!」と手を挙げた。


「それならカリガノがお役に立てるノ! あっちから水の匂いがするノ。きっとオアシスがあるノ」

「それならば、そこで洗いましょう」

「うん。こかとりす、だすね」


 砂に埋まったままの【毒鶏】を見つめる。

 すでに目に光はなく、虚ろだ。戦意をなくしているため、砂をとっても問題ないだろう。

 【つるはし(特上)】で砂をポコポコ削っていく。ある程度まで行くと、【毒鶏】はバサァと羽ばたき、そのまま地上へと跳び上がった。そして、そのままドドドドドッと砂煙を立てて走り去っていく。


「ばいばい」


 【毒鶏】は一刻も早く離れたいようで、一度も振り向かずに去っていた。

 その背中を見送ったあと、カリガノちゃんの案内でオアシスへ向かう。サミューちゃんは湧き出ていた泉でジャブジャブと洗った。

 そして……。


「レニ様、こちらです」

「きれい……」


 サミューちゃんに渡されたのは、虹色に輝く勾玉だった。

 大きさはみかんぐらい。不思議な材質でできたそれは、光の当たる角度で色を変える。

 アイテムボックスを確認すれば、そこにはこう表示されていた。


・【毒鶏コカトリスの勾玉】

・【世界礎の黒竜ブラックバハムートドラゴン】の秘宝の一つ。【世界礎の黒竜ブラックバハムートドラゴン】が眠りに落ちるとき、世界の危機を救うために創り出された。

・常時:全属性攻撃+200%、環境変化耐性+200%

・使用時:呪文により任意の相手に、属性の弱点を付与する


「ふわああ……!」


 こ、これは属性チートアクセサリー……! 属性攻撃がすごく強くなるため、ボス戦などで非常に役立つアイテムだ。

 だが、ボスというのは強くなればなるほど、属性攻撃が効かなくなってくる。属性の弱点がなくなることが多い。結局は無属性が強かったり、属性に左右されない武器の使い勝手がよくなるのだ。

 しかし、このアクセサリーは相手に属性の弱点が付与できてしまうようだ……。相手に弱点を付与し、そこを属性攻撃+200%で攻撃をする。まさにチート!


「レニ様、どうですか? お体のほうは……」


 アイテムの効果で喜んでいると、サミューちゃんが心配そうに私を見つめる。

 そう。秘宝は私が【魔力暴走】を起こしにくくするために、探していたのだ。

 ムートちゃんの言う通りなら、これを装備すれば、私が成長するまでの間、助けになってくれるのだと思うが……。


「あ、からだ、かるい!」


 【水蛇】の短剣を装備したときと同じように、これまでより体が軽くなったのを感じた。

 【猫耳グローブ】と【羽兎のブーツ】を外し、その場でぴょんと跳ねてみる。

 うん! やっぱり体が軽い!

 たぶん、『環境変化耐性』が上がったのが良かったのだろう。


「さみゅーちゃん、みて! れに、まえより、たかくとべる!」

「はい! これはもう、空を駆けています!」

「カリガノも一緒に跳ぶノ!」


 私がぴょんぴょんしていると、カリガノちゃんも隣でピョンピョンと跳ねる。

 カリガノちゃんのほうが全然高く跳べているけど、サミューちゃんは私を見て、すごく喜んでくれた。


「じゃあ、つぎでさいご!」


 ――三つ目の秘宝を手に入れます!

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