第93話 バーサス【毒鶏】です
瘴気の中に入った私は、【つるはし(特上)】を持ち、中心部へと向かって行った。【隠者のローブ】のフードを被っているため、気配が察知されることもないだろう。
瘴気は濁っていて、先は見通せない。
中心部に近づきすぎて、気づかれては困るので、そこそこのところで足をとめ、穴掘りを開始する。
カリガノちゃんの話では、【
その大きな体がしっかり埋まるぐらいが目標だ。つるはしを砂に刺すと、ポコンポコンと真四角に削れていく。普通なら、砂漠の砂をいくら掘っても、またすぐに埋まるのだろうが、さすが【つるはし(特上)】。しっかりと掘れていく上に、崩れることもない。
街長のシュルテムの屋敷に向かうときも、こうして地下道を掘ったなぁと懐かしく思い出す。
「ふかさ、よし。おおきさ、よし」
穴の底から空を見上げて、指差し確認。
これならば、【毒鶏】の体はすっかり収まるだろう。
というわけで、ピョンと穴から跳び出し、今度こそ瘴気の中心に向かう。瘴気のせいで視界は悪い。が、それはだんだんと姿を現し――
「ふわぁあ……! これが……こかとりす……」
――紫色の羽毛と真っ赤なトサカ。うしろ脚のあたりから緑の鱗へと変わり、長い尾が伸びている。
大きさは体高10mぐらいだろうか。なんといか、恐竜がいたらこんな感じなんだろうなと思う。
今は眠っているようで、脚を折り畳み、地面の上にうずくまっている。
私は【毒鶏】のそばまで歩み寄ると、そこでぱっとフードを脱いだ。
「こかとりす」
私の言葉にハッとしたように【毒鶏】が目を開ける。赤い目は私を見つけるとギラッと光った。そして、素早く立ち上がると私に向かって、うしろ脚の鋭い鉤爪を伸ばす。なるほど、キックだね。
「あたらないよ」
私はそれをピョンとうしろに跳んで躱す。【毒鶏】はまさか私が避けるとは思っていなかったようで、一瞬、目を大きく開く。そして、羽毛を逆立たせて頭を低く下げた。
【毒鶏】のうしろ脚を見れば、ぐっと砂を踏みしめているようだ。これは……。
「とっしん」
【毒鶏】の動きがわかっていた私は、大きく右へ跳んだ。【毒鶏】は元の私がいた位置へまっすぐと走ると、グサッと鋭いくちばしを突き刺した。突進と啄みを組み合わせている感じかな。
小回りが利くタイプではないようで、私の【
そして、この攻撃であれば、私の思惑が活きるはず!
「どこみてるの? こっちだよ」
【
なので、それと同じぐらい強いと思われる【毒鶏】も私の言葉がわかるはずだ。
つまり、こうして挑発すれば……。
『グゥェッ!』
赤い目が、さらに強くギラギラと光った。
うん、怒っている。いきなり現れた私に眠りを邪魔され、こんなことを言われれば、それは怒るよね。
【毒鶏】はまた頭を低くし、うしろ脚に力を入れた。今度はザッザッとうしろ脚で砂をかき、より力強く突進できるように、力を溜めているようだ。
じっと私を見据え、狙いを定めている。そして――
『グェェエエ!!』
咆哮とともに、私へ向かって突進。
力を溜めていただけあって、一度目よりもスピードが速い。そしてそれだけでなく、体から一気に瘴気が吹き上がった。
きっと、瘴気で体が動けなくなった敵を、突進で吹き飛ばしていくのが【毒鶏】の戦闘スタイルなのだろう。
だが、私には瘴気は効かない。さらに、突進もまっすぐに向かってくるだけならば、私は跳んで躱せばいいのだ。
いつだって避けることができる。
だからこそ、私は【毒鶏】の突進が当たるぎりぎりまでその場で待った。
――当たる。
【毒鶏】はそう思ったのだろう。瘴気により動けなくなった私はそのまま的となる、と。
赤い目が勝利を前に笑みの形に細まった。だが、甘い!
「じゃんぷ!」
私は【毒鶏】を十分にひきつけたあと、うしろへ跳んだ。
すると――
『クェ?』
――勢いづいた【毒鶏】は、ぽかんとした顔をして、穴の中へ落ちていった。
「ここ!」
【毒鶏】が落ちたのは、もちろん、私が掘った穴。私は淵のぎりぎりに立ち、【毒鶏】を誘っていたのだ。
反対側の淵へと跳び移った形になった私は、そのまま【毒鶏】を指差す。穴に落ちただけでは【毒鶏】は脱出できてしまう。なので……!
「すな! すなすなすなすな、すな!」
ちょうど【毒鶏】の首のあたりを目掛けて、アイテムボックスからどんどんと砂を出していく。すると、四角く切り取られた砂が【毒鶏】の頭と、首から下を分けるような形でパパパパパッと置かれていった。
まさか砂漠の真ん中に穴があり、しかもそこに落ちるなんて思っていなかった【毒鶏】は呆然としている。
ようやく自分の首回りが窮屈になってきたところで、ハッと気づいたようだった。だがもう遅い!
『グェ……! グエエエェエエ!!』
【毒鶏】は穴から脱出しようと、その大きな翼をはためかせようとしたようだ。しかし、すでに首から下は砂に埋まってしまっている。
なんとか脱出しようとした【毒鶏】は咆哮を上げ、頭をぐいぐいと動かす。きっと埋まっている首から下も羽ばたいたり、蹴ったりと暴れているはず。しかし……。
『クェ……。クゥ……』
暴れても無意味。むしろ、蟻地獄のようなそこは、暴れれば暴れるほどより、砂に埋まってしまうのだ。それを察したようで【毒鶏】は咆哮をやめ、しょんぼりと首を垂れた。
「ほかく、よし!」
完璧……! 完璧な捕獲大作戦だった……!
我ながらうまくいったことに、思わず「ふわぁあ!」と声が出る。
やはり大型モンスターの捕獲は、罠を作り、嵌めて捕まえるのが王道!
瘴気を纏い、周囲に撒き散らす【毒鶏】は普通に戦っていたら、瘴気の被害が多くなってしまう。そこで、こうやって罠に嵌めて、動きを止めることにしたのだ。
ゲーム内でも大型モンスターを倒すのに、罠を作ることがあった。建築を駆使して、その魔物専用の罠を作る情報がネットに流れていたなぁ。
なんにしろ、これで【毒鶏】は動けず、逃げることもできない。
そして、まだ、私には秘策がある!
このままでは、サミューちゃんとカリガノちゃんはここに来ることはできない。瘴気が濃すぎるのだ。
「しょうき、なくす」
【毒鶏】を捕まえたら、あとはこの瘴気を消す。瘴気を消せば、サミューちゃんやカリガノちゃんも近づくことができるだろう。
その方法は――
「かいふくやく、しゃわー!」
――【回復薬(神)】を【毒鶏】の体にふりかける!
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