第75話 目標ができました
体が熱い。だるさと眠気もある。
これはハサノちゃんに術を施してもらう前と同じ状態だ。
どうやら私は眠り込んでしまっていたらしい。
眠る前にハサノちゃんから、また【魔力暴走】を起こしてしまったこと。そして、消えかけていたと話を聞いた。
気がかりだったのはエルフの森の炎はちゃんと消火できたようだけど……。
「さみゅーちゃん……?」
ぼんやりと目を開ける。
そこには心配そうにこちらを見つめるきれいな碧色の瞳があった。
目を擦ったのだろうか。目元が赤くなっている。
思わずそこへ手を伸ばせば、触れる前にその手を取られてしまった。
「レニ様。……お身体はつらくないですか?」
「うん……、またちょっと、おなじかんじ」
「申し訳ありません……。また術前と同じ状況に戻ってしまったようです……」
「ううん、さみゅーちゃんのせいじゃない」
眠ったおかげか、熱っぽいとは言っても、起き上がれないほどじゃない。
ゆっくり上半身を起こせば、サミューちゃんは手伝ってくれた。
そうして、体を起こせば、長い黒髪の少女が見えて……。
「あ、ぶらっくばはむーとどらごん」
背中から生えた翼とおしりから生えた太く長いしっぽ。
【
【
「ようやく起きたようじゃの、幼いエルフよ」
私の言葉に応えるように、しっぽが左右に揺れる。
私が寝ている間に和解したのだろうか。
「れに、どのぐらいねてた?」
「レニ様が倒れられたのが午前中でした。今はもう夕方になるところです」
「わぁ……ほぼはんにち……」
思ったより寝ていた。
「レニ様はエルフの森を消化するために、力をお使いになりました。それによって【魔力路】に負荷がかかり、もう一度【魔力暴走】の状態になったのです」
「うん」
「そして……これまでと違い、体に急激な変化が起こったためか、体と魂が分離したような形になってしまったようです」
「からだとたましいが……」
サミューちゃんの説明を聞きながら、「なるほど」と頷く。
前世の記憶を思い出していただけかと思ったが、あれは魂が体から抜けていくような感じだったのかもしれない。
魂が前世の世界へと引かれているような感じとでもいうか……。
「余がおぬしの魂をもう一度体に戻したのじゃ」
「ぶらっくばはむーとどらごんが?」
はて? と首を傾げる。
そのときのことを思い出してみる。
「れに、くろいうずにのまれそうだった」
「……っ、はい」
「でも、さみゅーちゃんのこえ、きこえた」
「……私の声、ですか?」
「うん。さみゅーちゃん、ないてた。……なかないでっておもった。そうしたら、ひかりがでたよ」
人を困らせてばかりの自分。謝って生き続けていく自分。できないことを責め続ける自分。
……それに飲み込まれそうになった。
でも、サミューちゃんの声がして……その声が泣いていたから。サミューちゃんの涙を拭かないといけないって思った。
「ぱぱとままのこともおもった。そうしたら、はさのちゃんのこえもした」
「うむうむ。おぬしの魂はこの世界から消えようとしていた。そのままでもおかしくなかったが、きっかけがあったんじゃろう。あとは、余が手助けをして、【宝玉】の力を調整し、魔力も止めたのじゃ」
「しゅうちゅうしろってきこえた」
「そうじゃ。それが余じゃ!」
【
どうやら、私がこの世界でふたたび目覚めたのは、みんなの力のおかげのようだ。
「ふたりとも、ありがとう」
まずは部屋にいる二人にお礼をする。
すると、サミューちゃんは珍しく、目をさまよわせて顔を伏せた。
いつものサミューちゃんなら、もっと喜んでくれると思ったが……。
「あとで、はさのちゃんにもおれいするね」
朝からいろいろあったから、サミューちゃんも疲れているのだろう。
ハサノちゃんは今はここにいないので、あとでお礼をしないとね。
「おぬしが消えなくて本当によかったぞ。なんせおぬしは【宝玉】ごと、消えるところじゃった」
「ほうぎょくごと?」
「そうじゃ。おぬしは【宝玉】を持っておるじゃろう?」
……。これ、答えてもいいのかな?
ちらりとサミューちゃんを見上げれば、小さく頷いてくれる。
「レニ様、【
「そうなんだ……!」
【宝玉】の出所はゲームではわからなかったが、どうやら【
テンションが上がってしまう。
ゲームのオープニングで見た、【
そして、私はそのうちの一つを手にしていたのだ。
これは上がる。うれしくなる。
思わずふふっと笑っていると、【
「余の【宝玉】を持ち去ろうとして、よくそんな笑顔でいれるのぅ……」
「じゃあ、ほうぎょくがほしくて、れにをさがしたの?」
「そうじゃ! ちょっと様子がおかしかったから、器はいらんし【宝玉】だけを回収しようと思っておったのに……」
【
つまり、【
「えるふのもりにつくまえだったら、れにたちおそってた?」
「……まあ、そういうこともあるかもしれんの」
【
どうやら、サミューちゃんが立ち止まることなく、走り続けたのは正解ではあったらしい。
【
あそこで止まっていれば、襲われ、死んでいたかもしれない。
ハサノちゃんに術をかけてもらう前の私だったら、本来の力も【宝玉】の力もうまく使えず、負けていた可能性もあるからだ。
「あんなに殺気を出している者の前で、足を止めることなどありえません」
「じゃからといって、吹き飛ばすことはなかったじゃろう!」
「進路に立ち塞がるからです」
サミューちゃんはいろいろと考えた上で、走り抜けるという選択肢をとったのだろう。
結果として、エルフの森に炎が仕掛けられたわけだが、私が消火したから問題なし!
というわけで。
「れに、ほうぎょく、もってる」
「うむ。それは間違いないな。で、じゃ。それはいつからじゃ?」
「たぶん、うまれるまえから」
「う……生まれる前から……っ」
私の答えに【
「レニ様は特別なのです。レニ様のお母様が【宝玉】を使用されました。そして、それを受け継いで生まれてきたのです」
「ほう。エルフが【宝玉】を使ったのか。珍しいな。そのようなことをするのは人間に多いと思っていたが」
「……レニ様のお母様も特別な方なのです」
そうだよね。人間になったエルフなど前代未聞だろう。
あと、【
「母から子に受け継がれたことは理解した。たしかに【宝玉】を使った者がいれば、その子に受け継がれる。じゃが……」
【
「それにしてはおかしなことになっておるんじゃ。【宝玉】を受け継ぐものがいなければ、【宝玉】だけが世界に残る。魂は消えるが【宝玉】は残るはずなんじゃ。なのに、おぬしは【宝玉】ごと、消えるところじゃった。【宝玉】と魂が密接に絡まり合っておる……。どんな仕組みでそんなことになったんじゃ……」
【
「でじゃ、大切な話はここからじゃ。おぬしには生きていてもらわねば困るんじゃ」
「こまる?」
てっきり、「【宝玉】を返せ!」と言われたり、「器はいらぬ!」と言われたりすると思っていたが、そうではないらしい。
むしろ、【
「【宝玉】は七つ揃ってこの世界を支えている。おぬしの魂とともに消えられては、世界は終わってしまうのじゃ」
「……おわるの?」
「終わる」
「めつぼう?」
「滅亡じゃ」
その言葉に私の背中にビリビリビリと電気が走った。
私の大好きな世界の終わり……! それはつまり……!
「さーびすしゅうりょうのおしらせ……!」
オンラインゲームで一番つらいやつ……! サ終……!
「【宝玉】を魂と離すことができるか、【宝玉】が世界に定着するまで、おぬしには生きていてもらわねばならぬ」
「うん」
「【魔力暴走】なんかで消えられては困るのじゃ。わかるな?」
「うん」
真剣に。それはもう真剣に頷く。
サ終。それは絶対に阻止しなければならない。
それに――
「れにも、まりょくぼうそうで、きえるのはこまる」
――大好きなこの世界。
もっともっと見て回りたい。自分の五感で体験したいのだ。
「そこでじゃ。まずはもう一度、エルフの女王に術を掛けてもらう」
「まりょくろをほそくするやつ」
「ああ。じゃが【魔力路】への制限だけでは、おぬしの体は持たぬ。とくにおぬしはすぐに無理をするようじゃから、焼け石に水じゃろうな」
【
【魔力路】を細くする術をかけてもらっても、今回のように魔力を使いすぎた場合は、【魔力暴走】に戻ってしまうのだろう。
注意事項など、ハサノちゃんからはしっかり聞くつもりだし、一度体験したから、同じような状態にならないようにしたい。が、いかんせん私は失敗をする。間違いない。
「ほかのほうほう、ある?」
じっと【
この口振りならば、【
そして、【宝玉】を私の魂から離したいのだから、協力してくれるはずだ。
私の視線を受けて、【
「これからおぬしがやることは、二つある」
人差し指と中指。二本の指が立っている。
「一つは【魔力操作】を身に着けること。なんでもかんでも外に放出すればいいってものではない。これはエルフの得意とするものじゃから、きちんと教えを乞うんじゃ」
「うん」
私も【魔力操作】は訓練したいと思っていた。
炎を消したときのように、無理やり力を外へ出せばいいというものではないのだろう。
「もう一つは」
【
「――宝探しじゃ」
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