第60話 助けに来ました
休息(?)を終え、私とサミューちゃん、ピオちゃんで領都へと侵入していた。
私は【隠者のローブ】のフードを被り隠密。そして、サミューちゃんに抱っこしてもらって、高い塀を越えた。ピオちゃんは伝手があるということで、門の正面から。
領都はさすが領の中心地。とても広い。
領主のガイラル伯爵がキャリエスちゃんを攫ったとすれば、一番怪しいのは領城。でも、さすがに堂々と入城したとは考えにくい。
やはり、これまで、すべて地下に施設があったことを考えると、地下だろうか。
ピオちゃんは領城に勤める兵士から情報収集をし、サミューちゃんは城下町で聞き込み。すると、昨夜、青く光る馬車を見たという証言を得た。
たぶん、デスホースの馬車だろう。
目撃情報があったのは領城の北側。領城は領都の敷地の北側にあるのだが、その塀の向こう側には森が広がっている。その森の辺りとのことだった。
三人で森へ向かう。すると、その時、空へと花火が上がり――
「この火花はっ!?」
「レニ様!」
「うん。これ、れにのはなび」
青い空に広がる、赤と白で作られた猫の形の花火。
私がゲーム内で作った花火の形そのままだ。
「いそぐ」
「はいっ!」
「殿下っ!」
花火が上がった根本に目安をつけ、そこに向かって走っていく。
私の【羽兎のブーツ】の力と、サミューちゃんの【魔力操作】。そしてピオちゃんの馬、ジュリアーナがつけた【俊足の蹄鉄】があれば、すぐだ。
「ここだね」
たどり着いたのは森の奥。そこだけ木々がなく、拓けた土地になっていた。
一見すると、小高い丘。きれいに芝生が生えそろいとてもきれいだ。その斜面の始まりにはきれいなステンドグラスがはまっていた。
「どうやらこの下には地下施設があるようです。ここだけは外部と繋がり、明かりとりとして機能しているのでしょう」
「あそこ、がらす、われてる」
「殿下があそこからレニ君のアイテムを投げたのだろうか」
「そうだね」
この下にキャリエスちゃんがいる。
というわけで。
「はっくつ!」
【つるはし(特)】を取り出す。
そして、「えいっ!」と斜面に向かって、突き刺した。
ボコッと消える地面。それとともに、巨大な穴が開き、私はふわふわと落ちていった。
見えたのは――
「きゃりえすちゃん」
どうやら私が破壊した部屋は、村の教会のようになっていたようだ。
女神像と明かりとりのためのステンドグラス。その中央にキャリエスちゃんが捕らえられている。
手を掴まれ、無理やり地面に抑えられ、床には焦げた【身代わり人形】が落ちていた。
「ちゃくちよし」
地下の地面までは吹き抜け二階分ぐらい。私が開けたせいで光が燦々と降り注いでいる。
後ろでサミューちゃんが一緒に着地したのもわかった。
「おそくなってごめん」
キャリエスちゃんまではちょうど一跳びぐらい。
フードを被っていない私の姿がキャリエスちゃんにも見えたのだろう。
「レニッ……」
「うん」
いつも凛としていたキャリエスちゃん。その眉がきゅっと寄って、目から雫がぽたりと落ちた。
「レニッ……レニッ……」
「だいじょうぶ」
キャリエスちゃんが泣いている。
その涙を見た途端、胸がカッと熱くなった。
「すぐたすける」
すぐにでもあふれ出しそうな熱さをなんとか抑え、右手に集める。
そして――
「ひかりになぁれ!」
言葉とともにあふれた光が、キャリエスちゃんを抑えているリビングメイルへと届く。
二体のリビングメイルは光に包まれると、そのまま力をなくし、ガシャンとその場に崩れた。
「レニッ、レニッ……っ!」
自由になったキャリエスちゃんが私へと走ってくる。
そのまま飛び込んできた体をぎゅっと抱き留めた。
「いたいところない?」
「ありませんわっ……!」
「しんどくない?」
「どこも辛くありませんわっ。レニが来てくれたからっ!」
キャリエスちゃんはそう言うと、私をぎゅうっと抱きしめる。
その力強さから、キャリエスちゃんが無事なことは確かなようだ。
ほっと息を吐き、キャリエスちゃんが落ち着くように、背中をぽんぽんと叩く。
そのとき、地下室の奥から声が響いた。
「この光は……」
崩れたリビングメイルの向こう側。
光の届かない場所にその人物はいた。
グレーの髪をオールバックにし、表情は穏やか。声も相変わらず落ち着いている。
「がいらるはくしゃく」
お茶会で会ったときと違い、今は村の司祭が来ていたような白い服を着ていた。肩からは臙脂に金色の刺繍が施された布を垂らしている。
たしかにこうしてみれば「司教」と呼ばれるにぴったりの人物だ。
「今、光を発したのは殿下には見えませんでしたが」
「わたくしは一度もわたくしの力だとは言っていませんわ」
「……ああ、そうですね。たしかにそうです」
ガイラル伯爵がキャリエスちゃんの言葉に、何度か頷いた。
そして穏やかに笑う。
「なんの力もない殿下ですが、ようやく宝玉の力を得たのかと考えたのですが、やはり殿下はなにも持っていらっしゃらないのですね」
「だまれっ!」
ガイラル伯爵の言葉に返したのはピオちゃん。
どうやら、天井から綱を下ろし、地下まで降りてきたようだ。
剣を手にし、果敢にガイラル伯爵へと向かっていった。
「おや、殿下の騎士ではないですか。あれだけの傷を負っていたはずがなぜここへ? まあ、また同じことになるだけでしょう」
ガイラル伯爵はそう言うと、背後に向かって手で合図をした。
すると、奥の闇からリビングメイルがピオちゃんの前へと進んでいく。
数は六体。ガイラル伯爵を守るように立ち塞がった。
「くっ……」
リビングメイルを見たピオちゃんはそのままの勢いで、リビングメイル一体へと斬りかかる。金属と金属のぶつかる音。普通の人間であれば、その衝撃で倒れそうなものだけど、リビングメイルはその場に踏みとどまった。
やはり、リビングメイルに物理攻撃は効かない。ピオちゃんが前にやったように、鎧のつなぎ目を狙ってどこかへ縫い留めるしかないだろう。
あとは――
「はっ!!」
掛け声とともに、サミューちゃんが矢を放つ。
ピオちゃんはその声に合わせて、サッと身を翻した。
突然、ピオちゃんが目の前から消え、代わりに近づく矢。リビングメイルは避けることができず、お腹に矢を受けた。
「ギギギッ」
貫通した矢が、後ろの壁に突き刺さる。
お腹に穴が開いたリビングメイルは動きが鈍くなり、ゆっくりと後退していった。そして、そのリビングメイルの代わりをするように、すぐに違うリビングメイルが前へと出る。
サミューちゃんの攻撃は効いているが、やはり致命傷にはならないようだ。さらに、今回は数が多い。このままだと……。
「むねのあついの……」
集めるために意識を集中する。
すると、キャリエスちゃんが私にだけ聞こえる声でそっと囁いた。
「レニ、いいんですの?」
「ん?」
「ここで光を使ってはガイラルに見つかってしまいます」
「うん。でも、みんな、かえりたいっていってるから」
ガイラル伯爵が意のままに操っているように見えるリビングメイル。
意思を持っていないように見えるが、私には声が聞こえるから。
捕まった子どもたち、キャリエスちゃん、そしてリビングメイルたち。みんなを助けるにはこの光を使うのが一番いいと思う。
なので――
「ひかりになぁれ!」
集めた熱さを右手から放つ。
あふれた光はリビングメイル三体を包んだ。
「もういっかい」
一回では倒しきれなかったので、もう一度、胸の熱さに集中する。
そして――
「ひかりになぁれ!」
本日三回目。
右手からあふれた光がリビングメイル二体を包む。けれど……。
「……なんかよわい」
一応、二体とも力をなくし、崩れ落ちた。でも、最後のほう手からぷすぷすって鳴ってた気がする……。
ペットボトルの中身をどんどん注いでいるような、そんな感じ。
「レニ様っ、大丈夫ですか?」
「うん。さみゅーちゃん、こどものきゅうじょ、いってくれる?」
「しかし……」
「ひとじちにされたら、こまるから」
「……わかりました。なにかありましたら、お呼びください。そして、アイテムもすぐに使ってください」
「だいじょうぶ」
サミューちゃんの眉が心配そうにハの字に下がる。
けれど、私の言葉を聞いて、しっかりと頷いてくれた。
「子どもたちは、あちらのドアの向こうです。廊下にある扉の先、各部屋にいるようです」
「わかりました」
キャリエスちゃんから情報をもらい、サミューちゃんがドアのほうへ飛ぶ。
すると、ガイラル伯爵はそれを阻止するように、リビングメイルを動かした。
五体を光にしたとは言え、まだまだいるのがわかる。
私はまた、胸の熱さへと集中した。
……まだある。大丈夫。
これを右手に集めて――
「ひかりになぁれ!!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます