第44話 すこしでも不安が減るようにします

『レ、レニ様!? さきほどの光は……!』

『むねがあつかった。あつまれっておもったら、ひかりがでた』

『わかりました。まずはすぐに私のいる木陰へ戻ってきていただいてもいいでしょうかっ?』

『うん』


 サミューちゃんの焦った声が【精神感応テレパシー】で響く。

 どうやら、今の場所から離れたほうがいいようなので、すぐに飛んで、サミューちゃんの隣へと着地した。


『レニ様、木陰についたらすぐに気配を現していただいて――』

「うん。もういる」

「はいっ! ではこちらへ」


 フードを下ろして、姿を現す。

 ちゃんと木陰でやったので、だれかに見られてはいないだろう。

 すると、赤い髪の騎士が走って、私の元いた場所に行ったようで――


「ここから光が出たはず……」


 赤い髪の騎士は光の発生源を探しているらしい。

 すでに私はそこにはいないので、木が一本あるだけだが。


「ピオ様っ! こちらの鎧はすでに機能を停止したようです」

「そうか……」


 赤い髪の騎士が光の発生源を調べているあいだに、兵士三人で全身鎧を調べていたようだ。

 さっきまでと違い、リビングメイルは、まったく動かない。ただ鉛色の鎧が重なり転がっているだけだ。

 赤い髪の騎士は兵士の報告を聞くと、その目をサミューちゃんに向けた。


「僕には浄化されたように見えた。……君かい?」

「私はここにいました」

「……そうだね。君は先ほど魔物を消す方法を告げ、自分にはその力がないと説明していた」

「光の出た場所と私とは離れています。レニ様はここにいらっしゃったので、離れるわけにはいきません」


 サミューちゃんはそう言うと、私に向かって目配せをした。

 うん。わかった。


「れに、ここにいる」


 そう言いながら、木陰から出る。

 たぶん、私が光を出したことをサミューちゃんは隠そうとしているのだ。なので、私もそれに合わせた。……合わせられたと思う。


「まずはその鎧をもう少し調べてはどうですか? 周囲への警戒も必要なはず。どこから来たのか、なぜ空から現れたのか、他にいないか。それらを考えることをしなくていいのですか?」


 サミューちゃんが冷静に流れるように告げる。

 赤い髪の騎士は私とサミューちゃんを交互に見て、「わかった」と頷いた。


「調べよう」


 そう言うと、赤い髪の騎士は踵を返し、全身鎧のほうへと向かっていった。

 さすがサミューちゃん。うまく光についての話を切り上げてくれた。


「レニッ!! レニッ!! 大丈夫、ですか!?」


 危険が去ったことが、キャリエスちゃんにも伝わったのだろう。

 屋敷の前で避難していたキャリエスちゃんが走ってくる。

 ドレスで走るのは大変だろうが、キャリエスちゃんは息を切らしながら、まっすぐに私へと向かってきた。


「ど、どこかケガは?」

「だいじょうぶ」


 私の元まで走ってきたキャリエスちゃんは、心配そうに私を見ながら、胸の前で手を組む。なので、安心させるようにその手をぎゅっと包んだ。


「れに、つよいから」

「そっ……!! そうでしたわね……っ!!」

「きゃりえすちゃんはこわくなかった?」

「大丈夫ですわっ!!」


 キャリエスちゃんはそういいながら、顔をぼっと赤くした。

 そう。今は大丈夫。でも――


「ふあんだよね」


 生まれてからずっとなにかから狙われて。逃げるように出た先で今度はドラゴンに襲われ、リビングメイルに襲われた。

 この先もまたなにかに襲われたら?

 赤い髪の騎士はとても強いと思うし、周りの人もキャリエスちゃんを守ろうとしている。だから、その手伝いができるように……。


「これ、あげる」


 私はそう言ってから、腰元につけた【察知の鈴】へ手を伸ばした。

 猫の手だと結び目をほどくのが難しそうだったので、爪でストラップを切ってしまう。


「これ、てきがきたら、なる」

「鳴る……? それはどういうこと?」


 不思議そうにしているキャリエスちゃん。

 その右手を取り、てのひらに【察知の鈴】を載せた。


「てきがきたら、すずのおとがする。あげる」

「えっ……え、でも、これはレニのものですわよね?」

「うん。れにの」


 キャリエスちゃんはまだ混乱しているようだったけど、とりあえず手に載せられたものを見ることにしたらしい。

 そのままそっとキャリエスちゃんの目線まで、右手を持ち上げて――


「とてもかわいいですわ……」

「きんいろのすず、かわいいよね」


 私もこのまるっとしたシルエットがかわいいと思う。

 なので、ふふっと笑うと、キャリエスちゃんはポーッと私を見つめた。

 そして、はっと気づいたように顔を振る。


「いけませんわっ! これはレニがつけていたものです。もらうことなんて……!」

「てきがきたら、かってにおとがする。べんり」

「敵が来たら感知して音が出るってことですの!?」

「うん。つけてるひとだけ、わかる」

「そ、そんなすごいものであるならば、もっともらえませんわ!」


 キャリエスちゃんはびっくりした顔をして、【察知の鈴】を慌てて私に返そうとしてくる。

 うーん。どうやら、肝心なところが伝わっていないようだ。


「きゃりえすちゃん、ふあん、すくなくなる」

「私の……不安?」

「うん。おとがしたら、あぶない。でも、おとがしないならだいじょうぶ」


 私の言葉にキャリエスちゃんはきょとんとした顔をした。

 そう。【察知の鈴】は敵がいると鳴るというアイテムだが、逆に考えれば、音が鳴らないときは安全なのだ。


「おとがしたら、すぐにみんなにつたえる。そうじゃないときはゆっくりできるよ」


 がんばり屋のキャリエスちゃん。


「やすめるじかん、できるように」


 少しでも不安が減るように。


「もらってほしい」

「レニ……。でも、レニが困ることはないんですの?」

「れに、つよいから」


 装備品はほかにもたくさんある!

 なので、大丈夫だと頷くと、キャリエスちゃんは右手をぎゅっと握り、大事そうに左手を添えた。


「とても、大切に……大切にしますわ」

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