第43話 声が聞こえます
昔、権勢を振るった王国があった。その王国は魔法の研究が盛んで、人間でも強力な魔法を使えるようにしたのだという。
そして、魔法力で世界を席巻した王は、ある一つの野望を抱いた。
――不老不死。
築き上げた名誉と富を不変のものとするため、それを望んだのだ。
国の一大事業として行われた研究は、王が亡くなる直前にようやく完成した。
王都全体を使った魔法陣。中心にある王城にすべての集め、力を行使する。
すでに死期が迫っていた王は、魔法陣の完成を喜び、早速、魔法陣を発動させた。
その結果――
「ただの、まものになりさがった」
やれやれである。
【彷徨う王都 リワンダー】とゲームで呼ばれ、死霊系の魔物がたくさん出るダンジョンだった。
ゲームのシナリオを進めるとわかるが、魔法陣は人間には扱いきれるものではなかったのだ。魔法使いたちの考想では、肉体と魂を分離させ、魂を物体へと定着させる。そうすることで不老不死が実現するはずだったが、人間の魂はその力に耐えきれず壊れてしまう。
王都全体を使った魔法陣は強力で、王都の民や王城に勤めるものたちも巻き込み、全員が肉体を失い、壊れた魂が別のものに定着してしまったのだ。
【
ゲーム内ではその王都から出てくることはなかったが……。
「撃ちます!」
ふむ、と考えていると、サミューちゃんの凛とした声が響いた。
弓を構えたサミューちゃんが、リビングメイルへと矢を放つ。
碧色の目がきらっと輝いていたから、魔力も込められているのだろう。
矢は光をまとい、全身鎧の胴の部分へと突き刺さった。
「ギギィギッ……」
リビングメイルは金属が擦り合わされたような奇妙な声を上げて、一歩後退する。
物理攻撃には強いが、魔法は効くようだ。
リビングメイルは胴に突き刺さった矢を抜くと、それを握りしめて折る。半分に折れた矢はバラバラと地面に落ちていった。
「嘘だろ……」
「中身が……ないっ……!」
「魔物か……」
大きく穴が開いた鎧。そこはがらんどうになっていた。全身鎧の中に人がいないことに気づいた兵士たちの顔色が悪くなる。
するとサミューちゃんの凛とした声がもう一度響いた。
「恐れるのならば、引いてください。邪魔です」
そして、矢を放つ。
けれど、リビングメイルはその攻撃に気づいたようで、持っていた剣でサミューちゃんの矢を払い落とした。
魔力を帯びた矢が地面に落ちる。
リビングメイルも強敵が魔力を持つサミューちゃんであると気づいたのだろう。ギシギシと金属を軋ませながら、サミューちゃんのほうへと近づこうとした。
「僕は引かない! 剣を!」
声とともに、赤い髪の騎士がリビングメイルへと斬りかかる。
その手には最初に構えた【
「はぁっ!」
赤い髪の騎士は素早くリビングメイルの懐へと入ると、右肩に向かってその刃先を突き入れた。これはさきほど、リビングメイルの喉元を狙った攻撃と同じだ。鎧の継ぎ目へと刃を入れる方法。けれど、さっきと違って――
「はっ!」
赤い髪の騎士はそのまま体当たりするように、リビングメイルを抑え込んだ。
リビングメイルは通常ならそんなことで体勢を崩すことはないのだろうが、そこにサミューちゃんの矢が入った。
「撃ちます!」
矢はリビングメイルの左膝を捉え、大きく穴が開く。
不安定になったリビングメイルは、背中から地面に倒れこんだ。
そして、赤い髪の騎士は右肩に突き入れた剣をそのまま、地面へと刺して――
「なるほど」
どうやら、赤い髪の騎士はリビングメイルが全身鎧であることを利用し、鎧を地面に繋ぎとめるつもりのようだ。
……地面って堅いのにすごい。
私がおたまでカリカリやって10cmぐらいで疲れ切っていたのに、赤い髪の騎士はこともなげに剣を突き刺している。
倒れこむ力があったとはいえ、赤い髪の騎士がかなり強いことが伺えた。
【
「剣を!」
「っ、はいっ!」
赤い髪の騎士の声に、兵士の一人が慌てて手に持っていた剣を投げる。
赤い髪の騎士は剣を受け取ると、次は穴の開いた胴体に突き刺した。そうして、また次の剣を受け取る。
結果、右肩の継ぎ目と胴の穴、そして左膝の穴に剣が突き刺され、地面に固定された。
「ィギィィィイ」
リビングメイルは金属の擦れ合う音を響かせながら、なんとか立ち上がろうともがいている。
が、赤い髪の騎士の剣はしっかりと地面に突き刺さっていて、動くことは難しそうだ。リビングメイルには体力や昼夜は関係ないので、こうしてもがいていればいずれ抜け出ることもできるかもしれないが……。
「動きは封じた。あとは核を潰せば――」
「あの魔物に核などは存在しません」
赤い髪の騎士がリビングメイルから距離を取りながら、兵士へと指示を出す。しかし、途中でサミューちゃんがそれを遮った。
「魂が定着した物を魔力で消すしかありません。今回であればこの鎧を一気に魔法で消す力が必要です」
「そうか……」
「そして、私は矢に魔力を込めることは可能ですが、すべてを消す力はありません」
サミューちゃんの言葉に赤い髪の騎士が眉を顰める。
きっと、この場に魔法使いはいないのだろう。ここで魔法を使えるとすればサミューちゃん。けれど、そのサミューちゃんもすべてを消すことはできないようだ。
とすると、リビングメイルはこのまま……か、あるいはもう少しサミューちゃんに矢を打ち込んでもらって小さくしておくか……。
たぶん、私が考えていることと同じことを赤い髪の騎士も考えているのだろう。
赤い髪の騎士は少し迷って……。それからサミューちゃんへと近づいた。すると――
「ピオ! 後ろよ!!」
屋敷のほうから、突然、大きな声が響いた。声の主は――キャリエスちゃん。
キャリエスちゃんは赤い髪の騎士の背後、動きを封じられたはずのリビングメイルを見ていた。
「ギ、ィ……」
『カ、エ……』
剣を突き立てられた右肩の腕が外れた。
「イ……ギィ……」
『リ……タイ……』
左膝も外れ、左手で胴の剣を引き抜いたリビングメイルは、その剣を支えにし、右足一本で立ち上がった。
そのまま赤い髪の騎士へと不格好に近づいていく。
「ギィ、イ」
『カエ、リ』
その姿に赤い髪の騎士は急いで振り向き、剣を構えた。サミューちゃんも弓を構える。
そして、私は――
「……こえが、きこえる」
……なぜかはわからない。
けれど、金属の擦れ合う音の、意味が分かる。
【
「ギィ、イ……ギィ……」
『カエ、リ……タイ……』
帰りたい、返りたい、還りたい。
リビングメイルが……定着した魂の持ち主が果たして、どういう意味で言っているのか。本当の気持ちはわからない。
ただこの全身鎧からは解放しなければ……。
「かえろう」
胸が熱い。
その熱さを右手に集めて……。そしてそのままリビングメイルへと突き出した。
「ひかりになぁれ!」
私の右手から出た光がまっすぐにリビングメイルへと進む。
白い光は、全身鎧へと当たった瞬間、パッと周囲へと広がった。
そして、きらきらと輝いて――
『アリ……ガ……』
――昇っていく光。
まぶしさが消えると、全身鎧はガチャンと音を立ててて、その場で崩れ落ちた。
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