410 俺が知りたいのはリオンハルトのことなんだよっ!


「何かな? 何でも聞いてくれてかまわないよ」


「そうだぞ、何でも相談してくれ!」


 リオンハルトが優雅に微笑めば、ディオスが力強く請け負ってくれる。


「ハルシエルちゃん! ぼくでよかったらできる限り力になるから、何でも話してね!」


 天使みたいな笑顔で身を乗り出したのはえキューだ。


「先輩達に話すのが気後れするなら、後で個人的に聞いてくれてもいいんだぞ」


「え~っ! 個人的に話すなら、融通の利かないクレイユじゃなくてオレのほうがいいよね~♪」


 クレイユが真面目な顔でとんでもないことを言い出し、ヴェリアスがそれに乗っかる。


 ええいっ! なんでクレイユとヴェリアスに個人的に相談しないといけないんだよ……っ! 俺が聞きたいのはリオンハルトだっての!


 が、ピエラッテ先輩に余計なことをしないようにと釘を刺された手前、それを口に出すわけにはいかない。


 イゼリア嬢に変な誤解なんて、絶対にされたくねぇ――っ! そんなことでイゼリア嬢の好感度が下がる事態なんて、断固としてっ! 絶対っ! 看過できねぇ……っ!


 俺はリオンハルトに興味なんてまったく全然ないんです――っ! イゼリア嬢のお幸せのために、ぜひともお二人にはゴールインしていただきたいんです……っ! 心の底から全力で応援しますから……っ!


 心の中の叫びを外には出さないように気をつけながら、俺は興味深そうな顔を作ってイケメンどもを見回す。


「その、昨日、ピエラッテ先輩のモデルをしに行った時に、ジョエスさんも来てくださって、ドレスの相談をさせていただいたんですけれど……。やっぱり初めてなので、なかなかまとまらなくて……」


 ちらりと、イゼリア嬢に視線を向けてから、困ったように言葉を続ける。


「女性にドレスのことを聞くのはよくないと、先日イゼリア嬢にお教えいただきましたけれど、男性の衣装については聞いてもかまわないんですよね? 先輩達は、どんな衣装になさるのか、うかがってもいいですか……?」


 ふふふふふ……っ。どうだっ!? これこそ余計なお世話にならずにイゼリア嬢にリオンハルトの衣装について伝える完璧な作戦……っ!


 昨日ジョエスさんは、イゼリア嬢とリオンハルトの衣装を『白鳥の湖』のイメージで揃えたいと言っていたけれど……。


 ひとつだけのデザインを提示するというわけではないだろう。きっと、いくつか候補を示すはずだ。


 万が一の可能性だけど、イゼリア嬢がリオンハルトの衣装とあわせにくいザインを選んだり、逆方向のドレスをイメージしている可能性もある。


 けれど、事前にリオンハルトの衣装の傾向を知っておけば、不幸なすれ違いを回避できるハズ……っ!


 しかも、俺のドレスの相談ということでイケメンども全員に聞いておけば、俺の真意がイゼリア嬢にバレることもない……っ!


 うんっ、我ながら見事な作戦だぜっ! ピエラッテ先輩! このくらいならイゼリア嬢のご負担にもなりませんし、いいですよねっ!?


 イゼリア嬢のお役に立てることに、内心うきうきとしながらイケメンどものほうを見ると――。


 ……ん? なんか、イケメンどもが俺以上に浮かれてそわそわしてる……?


 も、もしかして浮かれてるのが思いっきり顔に出ちゃってる……!?


 思わず顔を伏せて両手で頬を包むが、自分ではどんな顔をしているのかよくわからない。


「ハルシエル……。そんなに照れながら……っ!」


 ディオスが感極まったように小声でこぼしたのが聞こえたが、えぇっ!? やっぱり浮かれてるのがバレちゃってる……っ!?


「えっと、その……っ」


 ど、どうしよう……っ!? 俺がイゼリア嬢の恋を応援しているとバレないように何とかごまかさないと……っ! でもどう言えば……っ!?


 内心でだらだらと冷や汗をかいていると。


「も~っ、ハルちゃんったら~♪ みんなの前で言うのがそんなに恥ずかしいんだったら、二人っきりの時にこそっとオレの服について聞いてくれたらよかったのに~♪」


 隣に座るヴェリアスが俺を見て、ぱちん♪ とウィンクする。


「まさか、ハルちゃんがドレスの色味をオレの衣装とそんなに合わせたかったなんて♪ 可愛いんだから~♪」


「はぁっ!? ちょっ、違いますよっ!」


 いったい何をどう間違ったらそんな発想になるんだよっ! 俺が知りたいのはリオンハルトの衣装であって、ヴェリアスの衣装なんか何色だっていいんだよっ!


 リオンハルトの衣装の色だって、イゼリア嬢にお伝えするために知りたいだけであって、俺自身はちっとも興味がないしっ!


 そもそも、俺はイケメンどもの誰ともドレスの色をあわせるつもりなんざねぇ――っ!


 聖夜祭では絶対にイケメンどもとイベントを起こすもんか! って思ってるのに、そんな危険な真似、誰がするか――っ!


「決してヴェリアス先輩の衣装の色を知りたいわけじゃありませんっ!」


 きっぱり言い切って、ぷいっとそっぽを向くと、逆隣に座るイゼリア嬢と目が合った。


 きゃ――っ! イゼリア嬢と目が合うなんて光栄すぎます――っ! って、喜びたいところだけど……。


 な、なんかイゼリア嬢に不審そうに見られてる……っ!?


 えっ!? なんで!? もしかして俺の目論見がイゼリア嬢にバレかけてる!?


 さすが才色兼備なイゼリア嬢ですっ! 素晴らしい洞察力……っ! じゃなくて!


 俺の気持ちや努力をイゼリア嬢が知ってくださるのは、天にも昇るほど嬉しいけど、俺がイゼリア嬢を頼りないと思っているんだと誤解されたり、秘めていた恋心を他人に知られて気まずく思うとか、そんなご負担をイゼリア嬢にかけたくない……っ!


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