408 俺がこいつらを引きとめますからっ!


 俺はちらりとイゼリア嬢を振り返る。


 先にリオンハルトと二人で座るイゼリア嬢は、頬を薔薇色に染め、見るからに幸せそうだ。


 ヴェリアス達がテーブルに行けば、絶対にうるさくして、あのいい雰囲気を壊すに違いない。


 つまり、俺がここでヴェリアス達の相手をしておけば、イゼリア嬢はもっと長くリオンハルトと二人っきりでおしゃべりできる……っ!?


 お任せくださいっ、イゼリア嬢! 俺がここでこいつらがお邪魔をしないよう引きとめておきます……っ!


「あのっ、せっかくですから、どんなお料理があるのか教えてほしいです! 見ただけじゃ味が想像できないお料理もありますし……。せっかくおいしいお肉料理を食べられる機会ですけど、あまり量は食べられないので、悔いのないようにしたいですし……」


 ディオス達を見回しながらお願いすると、なぜかイケメンどもが「うっ」と喉の奥で呻いた。


 ん? どうした? まだ誰も料理を食べていないのに、何か喉に詰まったのか?


「よ、よしっ、任せろハルシエル! 一番いいところを切り分けるからな!」


 ディオスがやたらと意気込んで言えば、ヴェリアスが珍しく真面目な顔で、


「これは責任重大だな~♪」


 と呟く。そんなヴェリアスに真剣な表情で話しかけたのはクレイユだ。


「ヴェリアス先輩。不本意なところもありますが、ここは四人で協力しましょう」


「ハルシエルちゃんに、おいしいお料理を楽しんでほしいもんね!」


 エキューが天使みたいに無邪気に笑う。


 よくわからないけど、イケメンどもがやる気になってくれたのなら、俺としては万々歳だ。


 ああでもないこうでもないと俺の意向を確認しながら、クレイユやエキューの意見を聞きつつ、ヴェリアスがあれこれと料理を盛ってくれる。


 っていうか、ヴェリアスってほんと器用だよな……。


 おなかの中に入ったら一緒なんだから、盛りつけは適当でもいいのに、まるでお店かと思うほど綺麗に盛りつけてくれている。


「あの、ヴェリアス先輩。そんなに気を遣って、綺麗に盛りつけてもらわなくても大丈夫ですよ」


 申し訳ない気持ちになってそう言うと、


「やっぱり綺麗な盛りつけのほうが食欲をそそるじゃん♪ せっかくのハルちゃんが好きなお肉料理だし、ちょっとでもおいしく食べてほしーな~って♪ 何より、オレがしたくてしてるから気にしなくていいよ♪ あ、もしかして、それよりも早く食べたい?」


「えっと、そういうわけじゃ……」


 俺が時間を引き伸ばした分、イゼリア嬢がリオンハルトと二人でいられるし!


 と思っていたのに。


「かなり悩んでいるようだが、何かあったのかい?」


 不意に、後ろからリオンハルトに声をかけられる。


 いつの間にやら、テーブルから立ち上がったリオンハルトがこちらにやって来ていた。


 ちょ……っ!? おいっ、リオンハルト! 俺がせっかくイゼリア嬢と二人きりにしてやろうと頑張ってたのに……っ! その努力を無駄にするんじゃねぇっ!


 俺だったら、イゼリア嬢と二人きりなんて、「他のイケメンどもは来るんじゃねぇっ!」って祈ってるところだぞっ!? イゼリア嬢がテーブルにおひとりで残ってるなんて、気の毒だろ――っ!?


「いえっ、もう大丈夫ですっ! ヴェリアス先輩、それ以上は食べきれなさそうなので、そろそろテーブルに行きましょう! 盛りつけていただき、ありがとうございました!」


 イゼリア嬢に寂しい思いをさせてはと、ヴェリアス達に声をかけて率先してイゼリア嬢が待つテーブルへ向かう。


 もちろん、俺の狙いはただひとつ! イゼリア嬢のお隣をゲットしてみせるっ!


 右隣はリオンハルトに譲ってやるけど、イゼリア嬢の左隣は渡さねぇ……っ!


「すみませんっ、イゼリア嬢! お待たせしてしまいました!」


 謝りながら、無事にゲットできたイゼリア嬢の左隣に座る。


 ひゃっほーっ! イゼリア嬢のお隣に座れるなんて久々だぜ……っ! イゼリア嬢のお隣でおいしいお肉を食べられるなんて、夢みたいだ……っ!


 が、浮かれている俺とは対照的に、イゼリア嬢は苦いお顔をなさっている。


 ど、どうなさいましたっ!? はっ、もしや、リオンハルトがイゼリア嬢を放ってきたせいで傷ついてらっしゃるのでは……っ!?


 リオンハルト、許すまじ……っ!


 怒りに燃える俺の耳に、イゼリア嬢のいさめる声が届く。


「オルレーヌさん……。上級生であるヴェリアス様に盛りつけをさせるなんて、不敬ではありませんこと?」


 はっ、イゼリア嬢に憂い顔をさせていたのは俺……っ!? 申し訳ありませんっ! イゼリア嬢の花のかんばせを曇らせてしまうなんて……っ!


 俺が謝るより早く、ヴェリアスが割って入る。


「まーまー、オレがしたくて勝手にお皿を取ったんだから、ハルちゃんのせいじゃないさ♪ はい、どうぞ。お姫様♪」


 テーブルにお皿を置いたヴェリアスが、気障きざな仕草でウィンクをよこす。


 ふだんなら、「お姫様って何ですかっ!?」と文句を言うところだけど、とりなしてもらったいまはさすがに口には出せない。


「ありがとうございます。切り分けてくださったディオス先輩や、クレイユ君やエキュー君も」


 素直に頭を下げると、ちゃっかり俺の左隣に座ったヴェリアスが感動したように口元に手を当てた。


「ハルちゃんが素直……っ! ナニナニ? ようやくオレの思いが伝わった!?」


「何ですか、それ! ヴェリアス先輩の思いなんて何ひとつとして伝わってませんけど!?」


 たまに素直に礼を言ったらこれだよっ! ほんっとヴェリアスは……っ!


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