405 どうしてもイゼリア嬢のお幸せを後押ししたいんですっ!


「……私としては、きみが傷ついていないようで何よりだけれどね」


 ピエラッテ先輩がほっと小さく息をつく。


「? いまの話に傷つく要素なんてありましたか……? 私のとしては、イゼリア嬢のことをお教えいただいて感謝しかありませんけれど……。ピエラッテ先輩、私が気づいていなかったことを教えてくださり、本当にありがとうございますっ! これで、イゼリア嬢とさらに仲良くなれる気がしますっ!」


 恋の応援をするなんて、すっごい親友っぽいよな!


 背中を押すうちに、イゼリア嬢に悩みを打ち明けられたりして……っ!


『オルレーヌさん、ありがとう。あなたは無二の親友よ』なんて言われたら、俺、感動で涙が止まらなくなっちゃうかも……っ!


 けど、ピエラッテ先輩に注意されたとおり、動くんなら、慎重にしないとなっ!


 俺はピエラッテ先輩の手を握りしめて頼み込む。


「ピエラッテ先輩っ! アドバイスに従って、余計なことをしないように注意しますが……。私、どうしてもイゼリア嬢のお幸せを後押ししたいんですっ! ピエラッテ先輩は思慮深くて観察眼にも秀でていらっしゃいますし……っ! 先輩さえよろしけば、これからもご助言をいただけませんかっ!?」


 両手を握りしめて懇願すると、ピエラッテ先輩が驚いたように目をみはった。


 かと思うと、見惚れそうなほど華やかな笑みを浮かべる。


「もちろんだよ! ……きみの助けになれるなんて、嬉しいな」


「ピエラッテ先輩……っ! ありがとうございますっ!」


 ピエラッテ先輩のどこか甘い微笑みに、どきりと心臓が跳ねる。


 うっ、ピエラッテ先輩ってやっぱり美人……っ! いえっ、俺の至高はもちろんイゼリア嬢ただおひとりですけれどっ!


 イゼリア嬢っ、待っててくださいねっ! ピエラッテ先輩にアドバイスをいただいて、リオンハルト先輩との恋を後押ししますからっ!


「あっ、でも、すみません。モデルの途中だったのに……」


 ピエラッテ先輩のに手を借りて立ち上がり、謝罪する。


「いや、気にしないでほしい。……それより、大丈夫かい? 今日は無理にモデルを続けなくても……」


「いえっ、大丈夫ですっ! ピエラッテ先輩にはお世話になってばっかりなんですから、せめてモデルくらいちゃんと務めさせてくださいっ! それに、私としても少し落ち着いて考えたいですし……。じっとしているモデルの時間はうってつけです!」


「そうかい? なら、もうしばらくの間はお願いするよ」


 ピエラッテ先輩がにこやかに笑う。俺を気遣ってくれて、本当に優しい方だなぁ……っ!


 よしっ! ピエラッテ先輩にアドバイスをもらいつつ、何としてもイゼリア嬢の恋を実らせられるよう、力を尽くすぜっ!


 俺がやる気を燃やすそばでは、一心不乱にスケッチブックに向かっているジョエスさんがいる。


 何がジョエスさんのクリエイティブ魂に火をつけたのかわからないけれど、このおかげで素晴らしいドレスができるのなら、それに越したことはない。


「ジョエスさんっ! イゼリア嬢の素晴らしいドレスをお願いしますねっ! もちろん、ジョエスさんならお任せして大丈夫だと信じていますが……っ! 私のドレスより、イゼリア嬢のドレスにどうぞ注力してくださいっ!」


「お任せくださいっ! ハルシエルお嬢様のドレスはもちろん、イゼリアお嬢様のドレスも素晴らしいものにしてみますわ! 『白鳥の湖』でジークフリート王子とオデット姫を演じたお二人が聖夜祭でもなんて……っ! どんどんインスピレーションが湧いてまいりますっ!」


 俺の言葉に、スケッチブックから勢いよく顔を上げたジョエスさんが、力強く答えてくれる。


 創る喜びにきらきらと輝く表情はまぶしいほどだ。


「せっかくの機会ですし、『白鳥の湖』を彷彿ほうふつとさせる衣装がよろしいですよね……っ!? ジークフリート王子とオデット姫の熱演を思い出して、お互いを意識しないとも限りませんもの……っ! 聖夜祭の頃にはさらに寒くなっておりますから、鳥の羽根で華やかさとあたたかさを両立させて……っ! お二人とも碧とアイスブルーの青系統の瞳でいらっしゃいますから、装飾も、瞳の色にあわせて青系統で揃えましょう……っ! ああっ、想像の翼が羽ばたきます……っ! いえっ、もちろんハルシエルお嬢様のドレスも全力でデザインさせていただきますので! リオンハルト殿下とは共通性を排除しつつ、イゼリアお嬢様とは通じるように……。どんな工夫をらすか、わくわくしますわ……っ! 近々、皆様にデザイン画をお持ちして相談させていただかなくては……っ!」


 うっとりと頬を染めて語るジョエスさんの怒涛どとうの勢いに押し流されそうだ。


 ある意味、推し語りをしている時の姉貴や俺の雰囲気に近いかもしれない。……こんなことを言ったら怒られるかもしれないけど。


「ジョエスさんっ、どうぞお願いしますっ! もちろんピエラッテ先輩も!」


 頼もしいブレーンが二人もいてくれると思うと、心強いことこの上ない。


 俺は二人に深々と頭を下げて、改めて頼み込む。


 イゼリア嬢がお幸せになってくださることこそが、俺の幸せっ!


 そのために、俺ができることは何でもやって、全力を尽くすぜ……っ!


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