293 こうなったら覚悟を決めろ俺っ!
脳内でびったんばったん
「どうしたんだ、ハルシエル? 急に黙り込んでしまって……」
「ハルシエルちゃん、何かあったの? もうリオンハルト先輩とイゼリア嬢は先に戻ってるけど……?」
「ふぁっ!?」
急に声をかけられて、すっとんきょうな声が飛び出す。
「え……?」
呆然と呟いて周囲を見回すと、エキューが言った通り、すでにリオンハルトとイゼリア嬢の姿は影も形もなくなっていた。
どうやらイゼリア嬢が出ていかれるのにも気づかないほど、思い悩んでいたらしい。
「何か、あったのか?」
ディオスが大柄な身体を屈め、心配そうに俺を覗き込む。
「い、いえっ! 大丈夫ですっ! すみません、私達も生徒会室へ戻りましょう!」
こうなったらもうリオン成り行きに任せるしかない!
覚悟なんてものは全然決まっていないけれど、俺はくるりと振り向き、イゼリア嬢達の後を追いかける。
とはいえ、生徒会室まではほんの数メートルの距離だ。
俺やディオス達が生徒会室へ入ると、ちょうどジョエスさんが恭しく頭を下げて、リオンハルトに挨拶しているところだった。
「リオンハルト殿下! このたびは素晴らしいご依頼を賜りまして、誠にありがとうございます! わたくし、これほど心躍るデザインは久々にいたしました! どうぞご試着いただき、ご不満な点や不足な点などございましたら遠慮なくお申しつけくださいませ!」
頭を上げたジョエスさんの顔は、まぶしいほどにきらきら輝いている。
すごいな~っ、自分の仕事が楽しくて仕方がないっていう感じだ。
そんなジョエスさんがどんなデザインのドレスを作ってくれたのか、いったん落ち着き始めていた胸のどきどきが、もう一度ヒートアップしてくる。
「お着替えに使わせていただけるお部屋はありますでしょうか?」
ジョエスさんの言葉にどきりと心臓が跳ねる。
「ああ、立ち稽古に使っている部屋と、その隣を使ってくれてかまわないよ」
リオンハルトが答えると、
「では、さっそくご試着をお願いいたします!」
とジョエスさんが勢い込んで身を乗り出した。
さっき立ち稽古をしていた部屋の前へ、生徒会メンバー全員とジョエスさん、大きな箱を抱えたお姉さん達でぞろぞろと移動する。
ナレーションなので衣装はないくせに、なぜか姉貴までちゃっかりついて来ていた。
どうせあれだろっ!? イケメンどもが着替えるのをじっくりばっちり見学するつもりだろっ! この腐女子大魔王がっ!
男どもの着替えなんか、見て何が楽しいのか、まったく全然理解できねぇ……っ!
っていうか、さしもの姉貴も大丈夫かっ!?
ひょっとして、萌えちらかすあまり、鼻血噴出とかするんじゃ……っ!?
だって、今まさに俺がヤバいもんっ! イゼリア嬢と一緒にお着替えなんて、心臓が壊れそう……っ!
いやっ、もしかしたら神々しさのあまり目が潰れちゃうかもっ!? 口どころか身体中から萌え汁が噴き出しちゃうかもっ!?
と、とりあえず、ジョエスさんのドレスを汚したりしないように、重々気をつけなきゃ……っ!
「わたし達はこちらで着替えるから、ハルシエル嬢とイゼリア嬢は隣を使うといい」
リオンハルトの言葉が俺の脳裏に割れ鐘のように響く。
つ、ついに、この時が……っ!
ええぃっ! こうなったら覚悟を決めろ俺っ! せっかくのチャンスをムダにするなっ!
網膜が焼き切れるまでイゼリア嬢のお着替え姿をじっくり永久保存してみせるぜ……っ! 鼻血出したり気絶しないようにだけ気をつけながらっ!
気合いを振り絞れっ、俺の精神力! と心の中で唱えながら、空き部屋の中に入ると。
「よかったわ。
空き部屋の中には、いくつかの衝立と小さなテーブル、椅子が何脚か置かれていた。
ジョエスさんを連れたイゼリア嬢が、俺に指示するとさっさと奥にある衝立の向こうへと入ってしまう。
「ハ、ハルシエル様っ!?」
がくぅっ! と崩れ落ちそうになった俺に、お姉さん達があわてた声を上げる。
ま、まさか衝立があったなんて……っ! その可能性はまったく考えてなかった……っ!
いやでも、さすがにイゼリア嬢の下着姿なんて、畏れ多過ぎて見られないしっ! っていうか、目にしたらあまりの神々しさに眼球が爆発するに決まってるし!
残念に思うと同時に、ほっと安堵している自分がいる。
俺とイゼリア嬢はまだ親友と言えるほどの仲じゃないもんなっ! さすがにイゼリア嬢も他人に着替えを見られたら嫌だろうし……。
うんっ! これはもう仕方がないっ!
「あ、いえ、大丈夫です。何でもありませんから……」
かぶりを振って立ち上がり、お姉さん達に導かれるまま、俺もイゼリア嬢とは違う衝立の陰に入る。
「さあっ、ハルシエル様もお着替えいたしましょう!」
「とてもお似合いになられるに違いありませんわ!」
にこにこと微笑みながら、お姉さん達が俺の制服を脱がそうとする。
「あのっ、脱ぐのはひとりで大丈夫ですから!」
っていうか、お姉さん達によってたかって脱がされるなんて恥ずかしすぎる!
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