277 読み合わせが終わって……。
「あ、あの……。みなさん、どうしちゃったんですか……?」
放課後、生徒会室での読み合わせが終わった直後。
今回も意見交換会をするはずなのに、生徒会室を満たしたのは、重い沈黙だった。
全員が全員、整った顔立ちに硬い表情を宿らせ、唇を引き結んでいる。
……え? ナニ……?
今回も俺のオディールの演技がそんなに下手くそだった……っ!?
シャルディンさんとアリーシャさんにアドバイスをもらったおかげで、個人的には、今回はなかなかうまくできたんじゃないかと思ってたんだけど……。
これ、またイゼリア嬢に怒られちゃう……っ!?
「いや、その……」
戸惑いがちに口火を切ったのはリオンハルトだ。
「たった数日できみが驚くほど上達していたものだから、驚愕してしまってね……」
リオンハルトのひと言が呼び水になったかのように、イケメンどもが口々に言葉を続ける。
「こんな短期間で、これほど上達するとは……。いったい、どんな練習を積んだんだ?」
クレイユが銀縁眼鏡の奥の蒼い瞳を
「も~っ! ハルちゃんってばオレを驚かせるのがうまいんだから~♪ まっ、体育祭の応援合戦の熱演を知ってたから、きっと何とかなるだろうとは思ってたけど♪」
とからかうような笑みをひらめかせ、俺の左隣に座るエキューが、
「ハルシエルちゃん、すごかったよ! びっくりするくらい上手だったもん! ハルシエルちゃんの悩みが解決して、ほんとによかったぁ~っ!」
と、心から喜んでいる満面の笑みを浮かべる。
「ハルシエル、本当にすごいじゃないか! 体育祭のハードル走の時も思ったが……。できるようになるまで努力を重ねるきみの姿勢は本当に素晴らしいものだ。俺も見習わないといけないな」
過分な称賛の言葉を言ってくれたのは俺の右隣に座るディオスだ。姉貴も満足そうな笑顔でうんうんと頷いている。
え……? ちょっと待って。イケメンどもの予想外の反応に、脳の理解が及ばないんだけど……。
これってつまり……。俺の演技がOKだったってこと!?
祈るような気持ちで、向かいのソファーに座るイゼリア嬢を見つめる。
笑みを浮かべるイケメンどもと違い、イゼリア嬢は細い眉をひそめ、考え込むように険しい表情をしていたが……。
吹っ切ったかのように、「ふぅ」と小さく吐息する。
「皆様がおっしゃる通り、確かに、今日のオルレーヌさんの演技は前回の読み合わせより、ずっとうまくなってらっしゃったと……。認めてさしあげなくもありませんわ」
「イゼリア嬢……っ!」
誰よりも認めてほしいと願っていたイゼリア嬢の言葉に、歓喜のあまり目が潤みそうになる。
と、イゼリア嬢がきっ! とアイスブルーの瞳を吊り上げる。
「ですけれど! あくまでも、前回の読み合わせよりは上達しているというだけですから! 勘違いしないでくださる!? 舞台で皆様に観ていただくには、まだまだ足りなくってよ!」
「はいっ! もちろん承知しております! 私などの
間髪入れず大きく頷くと、イゼリア嬢が戸惑ったように視線を揺らした。
「そ、その通りですわ! わたくしはヒロインなのですから、あなた以上の演技をするに決まっているでしょう!? オルレーヌさんになんて負けませんわ!」
「はいっ! お互いに頑張りましょうね!」
ぐっと拳を握りしめ、力強く頷く。
おおっ! シャルディンさんやジョエスさんが言ってた通りだぜ……!
俺が黒鳥オディールを頑張れば頑張るほど、イゼリア嬢もまた、オデット姫に打ち込む……。
なんかこれ、青春物のヒロインとライバルっぽくない!?
もちろんイゼリア嬢がヒロインで!
俺とイゼリアとで青春物だなんて……っ! きゃ〜っ! 照れちゃうぜっ!
でもでもっ、最初はライバルとして対立してるけど、一緒に協力して何かを成し遂げて熱い友情で結ばれるって、物語でもよくあるパターンだよなっ⁉
ということは、イゼリア嬢とオデット姫とオディールの演技を切磋琢磨したら……っ!
文化祭が終わった時には、俺とイゼリア嬢の間に熱い友情が結ばれてるかもっ⁉
憧れの親友ポジションがついにっ⁉
ふぉおおおおっ! これはなんとしてもオディールを頑張って、イゼリア嬢ともっとお近づきにならなくてはっ!
『オルレーヌさん。なかなかのものですわね。わたくしのライバルとしてふさわしくてよ!』
っておっしゃるイゼリア嬢が、やがて、
『オルレーヌさんこそ、わたくしの隣に立つにふさわしくてよ。これからもあなたともっと互いに磨き合いたいわ』
なんて言ってくださるようになったりして……っ⁉
ヤバいっ! そんなことになったら嬉しさのあまり昇天する~っ!
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