男なのに乙女ゲームのヒロインに転生した俺の味方は、悪役令嬢だけのようです ~ぐいぐい来すぎるイケメン達にフラグより先に俺の心が折れそうなんだが~
268 キタ――っ! イゼリア嬢演じるオデット姫の出番だ――っ!
268 キタ――っ! イゼリア嬢演じるオデット姫の出番だ――っ!
「みんなが賛成なら、もちろんわたしにも反対する理由はありません。理事長、どうぞよろしくお願いいたします」
最後に、意見を取りまとめたリオンハルトが姉貴へ軽く頭を下げる。姉貴が本性を知らなければ上品な紳士にしか見えない笑顔を見せた。
「みんなに賛成してもらえて嬉しいことこの上ないよ。精いっぱい努めるので、どうぞよろしくお願いするよ」
「どうぞいっぱい萌えさせてくれ!」が本心だろっ、ホントはっ!
心の中で思いっきり姉貴にツッコんでおく。
「では、理事長も加わってくださることが決定したし、さっそく読み合わせを始めることにしようか」
リオンハルトの言葉を合図に、全員が台本を開く。
「では、さっそくナレーションのわたしからだね」
にこにこと告げた姉貴が、
「深い森を
と読み上げる。
ここからしばらくは、ジークフリート王子と友人役であるディオス演じる「ディオン」、エキュー演じる「エリュー」のシーンだ。
シャルディンさんがアレンジした脚本では、国王と王妃に妃を決めるようにと言われて反発するジークフリート王子は、王子としての自覚が足りず、自分の進むべき道に迷う青年として描かれ、ディオンはそんな王子にやきもきしつつも支えようとする友人、二人より年下のエリューのほうは、一人前と認められたいと悩む少年として描かれている。
ディオンもエリューも、アレンジで増えた役だけど、短い台詞の中でも、ちゃんとしっかり性格が描写されてるんだよな~! さすがシャルディンさん!
同じ友人役でも、しっかり者のディオンと明るくて背伸びしたい年頃のエリューと、対照的な性格設定だし、しかも、その性格設定が演じるディオスやエキューともばっちりあってるんだよな~!
シャルディンって、もしや天才?
俺がシャルディンに感心している間にも、読み合わせはどんどん進んでいく。
ジークフリート王子がディオンやエリューと一緒に気晴らしに森へ狩りに行くことになり、狩りの途中、ひとりはぐれたジークフリート王子が湖のそばで出会うのは――。
「白鳥が、乙女の姿に……っ!? きみはいったい……っ!」
「きゃあっ! あ、あなたは……っ!?」
キタ――っ! お待ちかねっ! イゼリア嬢演じるオデット姫の出番だ――っ!
自分の出番はまだまだ先なのに、心臓が、飛び出しそうなほどばくばく鳴っている。
イゼリア嬢の悲鳴可愛いっ! ときおり台本に目を落としながら、リオンハルトを見つめて台詞を言っている姿が可憐すぎます――っ!
よかった……っ! 『白鳥の湖』を演目に提案して、イゼリア嬢をオデット姫に推薦して……っ!
そうっ! 俺は清楚で可憐なヒロイン然としたイゼリア嬢が見たかったんだよ――っ!
『キラ☆恋』では悪役令嬢ポジションだったけど、俺にとっては俺の人生のヒロインはイゼリア嬢ただお一人ですからっ!
うううっ、素晴らしい……っ! 感動のあまり、涙があふれてきちゃいそう……っ!
初めて聞いたとはいえ、読み合わせでこんなに感動していたら、本番では俺、どうなっちゃうんだろう……っ! 感涙で湖ができちゃうんじゃない!? いや、海になっちゃうかも!
ほれぼれとイゼリア嬢演じるオデット姫の台詞に聞き惚れ……。
「……ハルシエル嬢?」
「オルレーヌさん? 何をなさってますの?」
「おーい、ハルちゃん? 起きてる~?」
リオンハルトのいぶかしげな声とイゼリア嬢の険しい声、ヴェリアスのからかうような声に、ハッと我に返る。
「す、すすすすみませんっ!」
し、しまったぁ――っ! イゼリア嬢のお声に聞き惚れるあまり、オディールの出番なのにぼーっとしてたぁ――っ!
「え、えーと……っ!」
焦るあまり、覚えたはずの台詞が出てこない。
えーっと、台本の何ページだっけ……っ!?
うっかり台本をめくることすら忘れていた。大慌てでいま演じているシーンを探していると。
「はい、ハルシエルちゃん。ここだよ」
隣に座るエキューが、そっと台本を差し出して、とんとん、と指でオディールの台詞を示してくれる。
「ありがとうっ、エキュー君! えーと……」
「もうっ! オルレーヌさんったら、何をなさってますの!? せっかくの読み合わせが途切れてしまったではありませんの!」
「す、すみませんっ!」
イゼリア嬢の厳しい声に、がばりと深く頭を下げる。
これはもう、言い訳のしようもない。
ううう……っ! いくらイゼリア嬢の演技が素晴らしかったからといって、自分の出番を忘れて、流れを止めてしまうなんて……っ!
馬鹿馬鹿馬鹿っ! 俺の大馬鹿野郎――っ!
「本当に申し訳ありません……っ!」
泣きそうになりながら、身体を二つに折りたたむようにして、さらに深く頭を下げる。
「その、昨日は分かれて読み合わせをしたから、ハルシエル嬢もきっとタイミングがわからなかったんだろう」
クレイユが取りなすように口を開く。
ううっ、まさかクレイユにかばってもらうことになるなんて……っ!
「ありがとう、クレイユ君。でも、私がイゼリア嬢の演技の見事さに聞き惚れて、ぼうっとしていたのが悪いから……っ。みなさん、本当にすみません……っ」
「ぼうっとしているなんて、集中力が足りないんではありませんの?」
怒りに満ちたイゼリア嬢の声は針のように鋭い。
うううっ、これじゃあ、せっかく最近上がりかけていた好感度が急落してしまう……っ!
「まーまー。初めての全員そろっての読み合わせなんだし、失敗してもしょーがないって」
俺の沈みようを見かねたのか、ヴェリアスまでイゼリア嬢をなだめてくれる。
「それに、ハルちゃんが聞き惚れちゃうなんて、イゼリア嬢の演技がヒロインにふさわしいってことじゃん♪」
ぱちん、とウィンクしたヴェリアスに、イゼリア嬢が照れたようにうっすらと頬を染める。
「ヒロインにふさわしいと認めていただけるのはもちろん嬉しいですけれども……」
「そうなんですっ! イゼリア嬢の演技がほんっとうに素晴らしくて、思わず聞き惚れてしまって……っ! それでつい台本の進みを確認することすら忘れてしまって……っ! 本当にすみませんっ!」
思わずヴェリアスに便乗してイゼリア嬢を褒めちぎると、なぜかきっ、とイゼリア嬢に睨まれた。
「だからといって、ミスをしていいわけではありませんでしょう!?」
「はいっ! その通りです! すみませんっ!」
即座にもう一度、謝罪する。
「次はうっかり聞き惚れないように気をつけますので……っ!」
エキューに台本を返し、自分の台本を開くと、タイミングを計ったようにヴェリアスが口を開いた。
「んじゃ、ハルちゃんの台詞の直前からいこっか♪ ええと、「どうした、オディール? お前がわしに願いごとをするなど、珍しいこともあるものだ」」
「お父様! どうしても罰を与えてやりたい者がいるのです! もう二度と美貌を誇ることなどできぬように、オデット姫に呪いをかけてほしいのですっ!」
今度こそ、失敗してなるものかと、気合をこめて台詞を読み上げる。
読み合わせのミスは読み合わせで挽回するぜっ!
イゼリア嬢に感心してもらいたいがために、台詞だって必死に暗記してるんだからなっ! イゼリア嬢、見ててください――っ!
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