261 つい、弱音がこぼれてしまう
いや、あんなに苦労した甲斐あって、なんとかイゼリア嬢がヒロインを演じてくださることになったんだから、それを放棄するなんてありえないけどっ! もちろん全力を尽くす気満々だけどっ!
でも、つい弱音がこぼれちゃうくらい、ヴェリアスとクレイユの間に挟まれるのにと疲れたっていうか……。
はぁぁっ、と特大の溜息とともにこぼした俺の弱々しい呟きに、ヴェリアスとクレイユがそろってぎょっと目を見開く。
「ハ、ハルシエル嬢……っ!?」
「え……っ!? ハルちゃん、まさか本気……っ!?」
顔を強張らせた二人の言葉に、俺はあえて答えず、ふいっとそっぽを向く。
さっきまで、さんざん精神力を削られたんだから、ちょっとくらい意趣返しをしたって罰は当たらないだろ!?
ヴェリアスとクレイユの視線を避けるかのように横を向いたまま、「はぁぁ……っ」と、もう一度深く溜息をつくと、複数の息を飲む音が聞こえた。かと思うと慌ただしい衣擦れの音が鳴り。
「すまなかった! 許してくれ……っ!」
「そこまでハルちゃんが思い詰めてたなんて……っ! ごめんっ! オレとクレイユが悪かったよ……っ!」
間近で声が聞こえたかと思うと、両手をそれぞれがしっと掴まれる。
「わぁっ! 何ですか!?」
びっくりして振り向くと、クレイユとヴェリアスが俺が座るソファの前に並んでひざまずき、それぞれ俺の手を両手で握りしめていた。
「わたしやヴェリアス先輩の軽率な行動がそんなにきみを苦しめていたなんて……っ! 気づかなくて申し訳なかった……っ!」
「ごめんハルちゃん。あんまりクレイユが生意気だったから、つい悪ふざけが過ぎて……っ! もうしないように気をつける!」
身を乗り出しながら、クレイユとヴェリアスが先を争うように謝罪してくる。
いやいやいやっ! 謝るのはいいけどお前ら二人ともぐいぐい近づいてくんな――っ!
近いっ! 近いってばっ!
なんで謝るだけなのに、二人してそんなに身を乗り出してくるんだよっ! そんなとこ張り合わなくていいからっ!
ってゆーか、手を掴むな、手をっ! 両手を掴まれたら押し返すことすらできねーだろーがっ!
「わ、わかりましたっ! わかりましたからっ! 謝罪を受け入れますから、離れてくださいっ!」
とにかく二人に離れてほしくて声を張り上げると、二人の表情がほっと緩む。わずかに二人の手が緩んだ隙に、俺は振り払うように掴まれていた手を引き抜いた。
「ありがとう……」
クレイユが心底安堵したと言いたげに吐息する。
さっきまでの悲愴なほどの表情との落差に、ちょっとだけ罪悪感がうずく。が。
「も――っ! ハルちゃんってば驚かせるんだから~っ! オレのことそんなに
「ちょっ! ヴェリアス先輩っ! なんでまだぐいぐい来るんですかっ! 離れてくださいって言ったでしょう!?」
さらに身を寄せてくるヴェリアスを押し返す。だが、ハルシエルの細腕では、ヴェリアスの力に敵わない。と、
「ヴェリアス先輩! いい加減にしてくださいっ!」
目を怒らせたクレイユがヴェリアスの肩を掴んで俺から引き離そうとする。
「そうだぞ、ヴェリアス! いい加減にしろ!」
見かねたらしいディオスが加勢し、後ろからヴェリアスを羽交い締めする。
おおっ! さすがディオス! 頼もしいっ!
ハルシエルの力ではまったく
「ヴェリアス先輩! それ以上やったらさすがに見損ないますよっ!」
往生際の悪いヴェリアスに、エキューまでもがクレイユとともに加勢し、三人がかりでヴェリアスをソファから引きはがし、ずるずると床に引きずって俺から引き離す。
「ああ~っ! ハルちゃぁ――ん! 助けて~っ!」
情けない声を上げてるけど、誰が助けるかっ! もうそのまま生徒会室の外まで叩き出されてしまえっ!
あっ! ヴェリアスを叩き出すついでに、
さっきからずっと、こっちを見てうぇっへっへっへっへ……。って笑ってるあのにやけ顔、ほんと腹が立つ……っ!
引きずられるヴェリアスを何とも言えない困り果てた表情で見ながら、リオンハルトが吐息した。
「これは……。次から読み合わせをする時は、全員でするべきだね……」
リオンハルトの呟きに、俺は一も二もなく頷く。
「お願いですから、ぜひそうしてくださいっ!」
イゼリア嬢と! イゼリア嬢と読み合わせがしたいです――っ! 無理ならもう、一人で読み込んで暗記したほうがマシだっての!
ヴェリアスとクレイユと三人での読み合わせなんて……っ! もう二度と嫌だっ!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます