238 俺ってまぢで天才じゃね!?
「お、お待ちくださいっ! その、イゼリア嬢が考えてらっしゃるエンディングというのは、どんなイメージなのかと教えていただきたくて……っ! イゼリア嬢が主役のオデット姫を演じられるんですし、 できるだけイゼリア嬢のご期待に添えるものにしたいんです……っ! ですから、イメージの共有のために、イゼリア嬢はどんなラストを考えてらっしゃるかお教え願えますかっ!?」
勢い込んで尋ねた瞬間、イゼリア嬢の麗しのお顔が、ぽっと薄紅色に染まる。
恥ずかしげに視線を伏せるさまは、どんな花よりも可憐だ。
ヤ、ヤバイ……っ! イゼリア嬢のかわゆさに俺の心臓が止まりそう……っ!
もし、俺がこのままあの世へ旅立ったら、墓石には「藤川陽、イゼリア嬢の尊さに死す」って刻んでくれ、姉貴……っ!
「そ、その……っ。やっぱり、ジークフリート王子とオデット姫が、幸せに結ばれるラストが素敵だと思いますの……っ」
もじもじと恥ずかしそうに、祈るように両手を胸の前で握りしめながら、イゼリア嬢が小声で告げる。
「なるほどっ! やっぱり主役の二人が結ばれてこそですよね! わかりますっ!」
力強く頷くと、イゼリア嬢が弾かれたように顔を上げた。
「わかってくださるっ!? そうなの、そんなラストになったらいいなぁって思ってるんですの……っ!」
ぱぁっと顔をほころばせたイゼリア嬢の笑顔は、太陽なんか比じゃないまばゆさだ。
王子様とお姫様が結ばれるハッピーエンドがいいなんて、イゼリア嬢っては乙女だなぁ~っ! ほんと、可愛すぎますっ!
「じゃあ、ばばーんと派手にロットバルトを倒して、呪いが解けて、朝になっても乙女の姿でいられるようになったオデット姫とジークフリート王子が見つめ合って……」
「きゃーっ、素敵ですわ! ロマンティックですわね!」
恥ずかしそうに、でもどこか嬉しそうに身をよじりながら、イゼリア嬢が弾んだ声を上げる。
うんっ、俺の脳内にも見えてきた……っ! 呪いが解けた喜びに顔を輝かせるオデット姫の麗しのお姿が……っ!
イゼリア嬢が演じられたら、ほんっと素晴らしいだろうなぁ……っ!
脳内に浮かんだイメージを、俺はそのまま言葉にする。
「
イゼリア嬢が息を飲んで俺を見つめる。
「抱きしめあう二人はやがて顔を上げ、その距離が徐々に――」
「きゃ――っ! だ、だめですわっ! 人前でなんてそんな
顔を真っ赤にしたイゼリア嬢の悲鳴に、俺ははっと我に返る。
「ですよねっ! 絶対にぜーったいにそれはダメに決まってますねっ!」
イゼリア嬢とリオンハルトがそんな……っ! キ、キキキキ……っ! ダメだっ! 考えただけで憤死するっ!
くっそぉおおおお――っ! 演技とはいえ、イゼリア嬢と抱き合って見つめられるなんてそんな……っ! うらやましすぎるぞ、リオンハルト――っ!
俺だって! 俺だって合法的にイゼリア嬢と抱きしめあいたいっ!
――はっ! そうだ!
「イ、イゼリア嬢! ちょっと立ってくださいませんか!?」
「え?」
がたりっ、と立ち上がって手を差し出すと、頬を染めたままのイゼリア嬢が、不思議そうに小首をかしげた。
「そ、そのっ、ラストのイメージを深めるために、イゼリア嬢にご協力いただきたいと思いまして……っ! 私がジークフリート王子を演じさせていただきますから……っ!」
思いついた俺、天才じゃねっ!? これで合法的にイゼリア嬢と……っ!
「オルレーヌさんでは、身長も何もかも、リオンハルト様の代役になんてならないと思いますけれど……」
「そ、そこを何とか! もうリオンハルト先輩達は帰られましたし……っ!」
必死にイゼリア嬢に頼み込む。
いや、もしリオンハルトがいたとしても、一生に一度あるかないかのこんな大チャンス、絶対に譲らねーけどなっ!
「……台本のためというのでしたら、仕方がないですわね……」
ひとつ吐息して、イゼリア嬢が椅子を引いて立ち上がる。
「それで、わたくしは立って何をすればいいんですの?」
「そ、そうですね……っ。呪いが解けたオデット姫のお気持ちになっていただいて、私のことをジークフリート王子と思っていただければ……っ」
緊張のあまり、声が震えそうになる。
「あなたを? 本当に、難しいことを言うこと。まったくもう、仕方のない方ね……」
ふぅっ、と吐息したイゼリア嬢が、不意に。
「――王子様」
一瞬で、オデット姫へと変じて、俺を呼ぶ。
熱を宿した、どこか甘い声に――。
……もうダメ……っ! 今すぐ気絶しそう……っ!
一瞬で飛びそうになった意識を、かろうじて現実に引き留める。
「イ……っ、じゃなかった! オ、オオオオデット姫……っ!」
ぎくしゃくと錆びだらけのブリキの人形よりもひどい動きで、おずおずとイゼリア嬢へ手を伸ばす。
いけっ! 頑張れ俺! 今の俺はハルシエルじゃないっ! ジークフリート王子なんだ……っ!
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