234 生徒会メンバー全員で舞台に立つには!?


 始業式の後は生徒会室で昼食にするからね、とあらかじめリオンハルトに言われてたけど……。


 俺は生徒会室の広いテーブルの上を呆然と見つめる。


 あれ? ここって生徒会室、だよな……? それとも、どっかの高級レストランだったっけ……?


 一瞬、そんな不安を覚えるが、リオンハルト達も、俺もイゼリア嬢も、もちろん聖エトワール学園の制服だ。


 いや、イゼリア嬢だけは、たとえ他の女生徒と同じデザインの制服を着ていても、あふれる高貴さと可憐さで常に光り輝いて見えますけどっ!


 でも、一瞬、ここがどこなのか迷いそうになるほど、テーブルクロスの上に並べられた銀のカトラリーは天上のシャンデリアの光を反射してきらめき、あちらこちらに飾られた花はかぐわしい香りを放っている。


 旅行の時にも思ったけど、さすがセレブ達だぜ……。


 まさか、始業式の後のお昼ご飯がフルコースだなんて思ってなかったっての! シノさんが給仕してくれた前菜は、見ているだけでお腹が鳴りだしそうなほど、おいしそうだ。


 くそうっ、こんなことなら、朝ご飯を半分に減らしておいたらよかった……っ!


 高級料理を残すなんてことになったら、もったいなさすぎて涙が出る……っ! あっ、シノさんに頼んだら、タッパーに入れて持って帰らせてくれないかな!?


 と、姉貴がおもむろに口を開く。


「みんな、始業式はお疲れ様だったね。今日から二学期が始まるけれど、二学期は十一月の頭に文化祭が、十二月の学期末には聖夜祭がと、イベントが盛り沢山だ。優秀なきみ達なら、ひとつひとつ力を合わせて乗り越えていってくれるものと信じているが、もし何かあったら、遠慮なく生徒会顧問であるわたしに相談してほしい」


 穏やかな笑顔で生徒会の面々を見回して告げる姉貴は、いかにも頼りがいがある年長者と言う雰囲気だ。午前中の始業式で全校生徒を相手に立派な訓辞をしていた時と変わりない。


 けど、弟である俺の目には姉貴の内心が手に取るようにわかる。


 コイツ……っ! 二学期はどんな萌えイベントが起きるだろうと、脳内で腐妄想を繰り広げてやがるな……っ!


 確かに文化祭も聖夜祭も大きなイベントだけど、俺はイケメンどもとのイベントなんざ起こす気はこれっぽっちもないからなっ!? 俺がイベントを起こしたい相手は、イゼリア嬢だけっ!


「腹が減っては何とやら。とりあえず、話し合いは食後にするとして、今は昼食を楽しもうじゃないか」


 姉貴の言葉を合図に、食事が始まる。


 ハルシエルが少食だとしても、おいしいご飯を食べるのはもちろん大歓迎だ。オルレーヌ家じゃ、こんな豪華なご飯なんて食べられないし。


 何より、イゼリア嬢と同じテーブルでのご飯……っ! これを幸福と言わずになんと言う!?


 おいしい料理は人の心をなごませる力を持っているのか、わきあいあいとした昼食が済み、食後のお茶となったところで、リオンハルトが「さて……」と口火を切った。


「文化祭で演じることになった『白鳥の湖』だが……。オデット姫がイゼリア嬢、黒鳥オディールがハルシエル嬢、ロットバルトがヴェリアス、ジークフリートがわたしと決まったわけだが、わたしはやはり、生徒会メンバーの全員が舞台に立ってほしいと思うんだ」


 リオンハルトの言葉に、イゼリア嬢が「リオンハルト様のおっしゃる通りですわ!」と大きく頷く。


「皆様、素敵な方ばかりですもの! 皆様が舞台に立ってくだされば、さぞ華やかな劇になるに違いありません! 観られる生徒の方々も、喜ばれるに違いありませんわ!」


「さすがイゼリア嬢です! 私もその通りだと思います!」

 すかさずイゼリア嬢に追従する。


 「皆様」ってコトは、俺もその中に含まれてるってことですよね!?


 ひゃっほう! イゼリア嬢に「素敵」って言われちゃったぜ~! 今日、九月一日はイゼリア嬢に素敵と言われた記念日だ! カレンダーに書き込んで毎年祝おう!


 さすが夏の旅行でイゼリア嬢とちょっと親密になれただけあって、新学期早々、幸先がいいぜっ!


 そして、もっとイゼリア嬢に感心していただくべく……っ!


「あのっ、そのことなんですけれど!」


 気合満々で発言した俺に、全員の視線が集中する。


 うっ、イケメンども全員に見つめられるなんて、居心地が悪い……っ。

 けど、この程度で緊張してちゃ、本番で大勢の前で舞台に立てるか!


 あっ、イゼリア嬢は全然かまいませんから! むしろばんばん見つめてくださいっ! イゼリア嬢に見つめていただけるなんて、それだけで、やる気MAXになりますから!


「その、生徒会メンバー全員で舞台に立とうと思ったら、やっぱりオリジナル要素を増やして、配役を増やすしかないと思うんです」


「まあ、それが妥当なところだろうな」

 俺の言葉にクレイユが頷く。


「だが……。配役を増やすとなれば、台本を変えたりと、大変だろう?」


「じ、実は……。『白鳥の湖』をしたいって思った時から、アイデアを温めていて……。王子の友人役として二人、ロットバルトの部下役として一人増やすのはどうでしょうか!? 台本の当てもあるんです!」


 頑張れ俺! イケメンどもを説得しろ! ここで「やっぱり『白鳥の湖』以外で」なんてことになったら、せっかくのイゼリア嬢のヒロインが……っ!


 俺はモブでも何でもいいから、イゼリア嬢が舞台で輝いてらっしゃる姿を見たいんだよ――っ!


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