229 旅行は楽しんでもらえたかな?
行きとは逆の順番で、まず最初にゴルヴェント家のお屋敷でイゼリア嬢に別れを告げ、次いでオルレーヌ家へ送ってもらう。
バスから降りるイゼリア嬢にすがりついて引き留めたい衝動を必死で食い止めた俺の理性を、誰か褒めたたえてほしい。
ああっ! イゼリア嬢との素晴らしい旅行が終わってしまう……っ!
でも大丈夫です! イゼリア嬢との素晴らしい思い出の数々は、俺の心のアルバムにしっかりばっちりがっちり保存されてますからっ!
この素晴らしい思い出達があれば、俺、どんな逆境に陥ってもイゼリア嬢の笑顔を思い出して立ち直れます……っ!
「ハルシエル嬢。旅行は楽しんでもらえたかな?」
「はいっ! とっても素晴らしい旅行でした!」
イゼリア嬢との思い出にひたっていた俺は、リオンハルトの問いかけに、間髪入れず力強く頷いた。
ほんっと、今回の旅行は大収穫だったぜ!
イゼリア嬢の貴重な私服姿ばかりか、極レアな水着姿、さらにはネグリジェ姿まで拝見できるなんて……っ!
湯上りでしっとりと上気した頬のイゼリア嬢や、輝くような笑顔でうさぎと
もし心の充電具合を可視化できるんなら、今の俺は、イゼリア嬢への萌えパワーで太陽よりもまぶしいに違いないっ!
イゼリア嬢のことを思うだけで、上機嫌で鼻歌を歌いだしたくなる。
心のアルバムに収めたイゼリア嬢の女神の如きお姿は、機会があるたびに思い出して、によによ萌えるんだ……っ!
「そうか。そんなにきみに喜んでもらえたなんて、準備に携わったわたし達も嬉しいよ」
俺の返事にリオンハルトが嬉しげに顔をほころばせる。ほっとした表情を見せたのはディオスだ。
「旅行の話をした時から楽しみにしてくれていたようだったが……。きみの期待を裏切らずに済んで、よかったよ」
「そんなにハルちゃんに好評だったんなら、どうする? 冬休みにもどこかに行っちゃう?」
「えっ!? ほんとですか!?」
楽しそうに提案したヴェリアスに、思わず食いつく。
もし、冬にも旅行に行けるんだったら……。
今度は、イゼリア嬢の冬バージョンのレアなお姿を見られる……っ!?
「わーお♪ 予想以上の好反応♪ これは冬も旅行を計画しなきゃね♪」
「そうだな。今まで、冬に旅行というのはなかったが、取り入れてもいいかもしれないな」
ヴェリアスの提案に、珍しくディオスが同意する。
「冬だと、どんなアクティビティがあるか、調べておく必要がありますね」
「やっぱりスキーとかスノボとか? どっちも楽しそうだよね!」
銀縁眼鏡のブリッジをくいっと上げながらクレイユがいい、エキューが弾んだ声を上げる。
が、俺は素直に喜べない。
「その……。スキーもスノーボードも、やったことがないんだけど……」
「大丈夫だよ、ハルシエルちゃん! 僕が教えてあげるから!」
エキューが天使の笑顔で請け負ってくれる。
「ああ、任せてくれ」
とディオスも頼もしく頷いた。
いや、だから! そもそもおれは、イケメンどもに教えてもらうようなイベントを起こしたくないんだよっ!
って、あれ……? 『キラ☆恋』のゲーム自体は冬休みが始まる直前、クリスマスならぬ『聖夜祭』のダンスパーティーのシーンで終わるよな……。
ってことは、冬休みに入ったら、もうイケメンどもとのイベント発生をきにしなくてもいいっ!?
二学期の間に、イゼリア嬢の好感度を上げておけば、旅行っていう非日常空間で、イゼリア嬢ときゃっきゃうふふできる可能性もあるっ!?
「みんな……。冬の旅行のアイデアを考えるのが楽しいのはわかるが、今すぐに決められることではないだろう? 年始はそれぞれ家の務めもあるだろうし……。まずは、日程調整から始めなくては」
盛り上がるエキュー達をなだめるようにリオンハルトが穏やかな声を出す。
途端、イケメンどもが難しい顔つきになった。
ディオスが
「そうだな……。王族には年始の祝賀会や、国民への年賀の儀があるし、祝賀会は俺達も出席しなければならないからな……」
「年末年始の挨拶回りもありますしね……」
クレイユがげんなりした顔で続ける。
そっか……。弱小貴族のオルレーヌ家は、挨拶回りなんてろくにないし、もちろん、王宮の祝賀会に招待なんてされるわけがない。
年末年始は家族そろって家でのんびり過ごすのが通例だけど、高位の貴族、ましてや王族となると、公式行事が目白押しなんだろうな……。
イゼリア嬢だって、同じに違いない。
「お忙しいのなら、旅行は無理ですね……」
くそうっ! せっかく、イゼリア嬢ともう一回、旅行に入れるチャンスだと思ったのに……っ!
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