218 オレが一晩中つきっきりで……。
イゼリア嬢を見つめ、もう一度、謝罪しようとした瞬間。
「とゆーワケだからさ♪ 他の面々も、怒るならオレにってコトで♪ さ~、ハルちゃんは少しでも早く怪我が治るように、早寝しよーね~♪」
一歩踏み出したヴェリアスが、ひょいと俺を横抱きに抱き上げる。
「ひゃあっ!? 何するんですか!? 下ろしてくださいっ!」
足をばたつかせるが、ヴェリアスの腕は緩まない。イゼリア嬢やリオンハルト達を放って、ずんずん階段のほうへ進んでいく。
「ハルちゃん、おとなしくしてないと危ないよ~?」
「そう思うんなら下ろしてくださいっ! それにサンダルが……!」
「サンダル? あー、オレが後で持って行ってあげ――あ、クレイユ。持ってきてくれたんだ。サンキュー♪」
「ヴェリアス先輩。急に連れ去るなんて、どういうつもりですか!?」
俺のサンダルを片手に、足早に俺達に並んだクレイユが、ヴェリアスを睨みつける。
「えーっ。だって、申し訳なさそうにしてるハルちゃんを見てられなかったからさ~。とりあえず、あの場はいったん離れるべきだと思って。そうしたら、後はリオンハルトがイゼリア嬢をなだめてくれるだろ?」
ヴェリアスなりに考えてくれた結果なのか……。
って、だからといって、いつまでもお姫様抱っこをされる筋合いはねぇっ!
「だったら、ロビーを出ましたし、もういいでしょう!? 下ろしてくださいっ!」
俺の抵抗に、クレイユの蒼い目がすがめられる。
「ヴェリアス先輩。ハルシエル嬢が嫌がっています。彼女を下ろしてください。代わりにわたしが運びますから」
が、ヴェリアスは気にした様子もなく、むしろクレイユを挑発するかのように唇を吊り上げた。
「え~っ! ハルちゃんはクレイユよりオレのほうがいいよね~?」
「どちらもお断りです! ヴェリアス先輩! いい加減、ふざけるのはやめて下ろしてもらえます!?」
「ほら~、クレイユ。お断りだってさ~♪」
「ちょっと!? 私の言ったことをちゃんと聞いてます!? 「どっちもお断り」って言ったんです!」
「え? ナニ? ちょっとよく聞こえなかったなぁ~♪」
ヴェリアスがすっとぼける。
おーまーえーは――っ!
ばっちり! しっかり! 聞こえてただろ――っ!
「ほら~、ハルちゃん。階段だからさ。暴れるとマジで危ないって。まあもし、万が一のコトがあっても、オレが身を
ヴェリアスが階段を登り始め、仕方なく暴れるのをやめる。さすがに、階段で何かあったらシャレにならない。
クレイユも同じように判断したのだろう。むっすりとした顔つきのまま、黙ってついてくる。
「は~い、到着~♪」
俺に割り当てられた部屋の前に着き、ようやくヴェリアスが下ろしてくれる。俺はすぐにポケットから鍵を取り出すとドアを開けた。さすがに部屋の中まではずかずかと入ってこないだろう。
「えっと、ありがとうございました……」
方法はともかく、ヴェリアスが俺が針のむしろにならないよう、気を遣ってあの場から連れ出してくれたのも、クレイユが心配してついてきてくれたのも確かなので、二人を振り返ってぺこりと頭を下げる。
「いや。怪我をしたきみを放っておけないのは当然のことだろう?」
かぶりを振ったクレイユが差し出したサンダルを受け取る。
「そーそー。オレ達に迷惑をかけたかも、なーんて気にしなくていいからさ♪ ってゆーか、ほんとごめんね。靴ずれがしちゃうようなサンダルを選んじゃって」
ヴェリアスが珍しく、しょんぼりした声を出す。
「本当にその通りですよ。ハルシエル嬢に怪我をさせるなんて、なんてものを選んだんですか!」
「ま、待って、クレイユ君」
ヴェリアスを睨みつけるクレイユを、あわてて押し留める。
「ヴェリアス先輩は、サンダルの候補を選んでくれただけで、最終的に選んだのは私だし……。私も、急に履いてくるんじゃなくて、旅行前に何度か履いておけばよかったんだもの」
「……きみがそう言うのなら……」
不承不承といった様子でクレイユが吐息する。
ぱぁっ、と顔を輝かせたのはヴェリアスだ。
「ハルちゃんってばやっさし~♪ いっつも冷たいのに、たま~に優しいのがぐっとくるよね! ハルちゃん、まだ痛いんだったら、オレが一晩中つきっきりで「痛いの痛いのとんでけ~!」ってナデナデしてあげよっか!?」
「何を言ってるんですか!」
クレイユが眼鏡の向こうの蒼い目を吊り上げ、させてなるものかとヴェリアスの肩を掴む。
俺もクレイユと全く同感だ。
「何の妄言ですか、それはっ! 絶対、何があろうとお断りです!」
ったく。ちょっと感謝してもいいかなという気になったら、すぐこれだよ!
「では、おやすみなさい!」
これ以上、ヴェリアスとクレイユの相手なんかしていられるかと、俺は二人の前で、あえて音を立ててドアを閉めた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます